第5章 噂話
●小金井 慎二● 〜校庭〜
“キセキの世代”の話は以前聞いたことがあった。
だから、目の前で監督と日向が繰り広げる話にも着いていくことは出来た。
なんとかギリギリだけど。
だから、オレよりバスケ歴が長い伊月を視界に収めた時。
また違った面持ちをしていたのは、単に経験者の見解で思うことがあるからだと思った。
「キセキの世代…か…」
そう呟いた伊月を気にしたのは、オレだけじゃなかったようだ。
「ん?おーい伊月〜?
水戸部が“どうかしたか?”
って言ってるぞー?」
水戸部の言葉を、代弁する様に口を開いた。
これはいつものことだ。
「ん?あぁ、
なんか引っかかってることがあってな…」
「引っかかる?」
さっきから、伊月が時折何かを考え込んでいるようなんだ。
そのことに気づいた時、反射的にオレの頭を1つの回答がよぎった。
まさか…
ポテチちゃんのことか?!
オレと違って伊月は、ポテチちゃんにフラれたことなんて、なにも気にしていないと思っていた。
いつもと同じ、クールな顔してるくせに。
なぁーんだ、伊月もやっぱり惜しいんじゃん!!
天才的に導き出したその答えが、実は100%自分の憶測であることを忘れて、たった今オレと伊月はポテチちゃんが心残りな者同士になった。
「お前の気持ちよく分かるぞ!」という励ましを視線で送る傍ら。
輪の中の話はポテチちゃんではなく、バスケ部のことに進んでいく。
「この"黒子 テツヤ"君、って子と、
さっきの"火神 大我"って子は要注意ね。」
そうそう。
その火神 大我を連れてきて、なんか疲れちゃったな…
ポテチちゃんにフラれたことで、自分のテンションがあからさまに落ちていくのが分かった。
ネガティブと伊月の駄洒落に邪魔されつつも、なんとか自分を奮い立たせた矢先に、俺の目の前に現れたのは、新入生らしからぬ大男だった。
それがさっきのやつ、“火神 大我”。
即席のモチベーションなんて、燃費の悪い車みたいにエネルギーをすぐに消耗して…
まるで、ポテチちゃんの背中を見送った時の形状を取り戻すかのように、元通りに崩壊してしまった。
さっきとは違う意味で泣いちゃったよ。
オレ車運転しないからよく分からないけど。