第5章 噂話
●相田 リコ● 〜校庭〜
「「 あ… 」」
隣に座る日向君も、私のように呆気に取られているらしい。
驚いた私はとりあえず…
「うん。」
…とだけ答えた。
何こいつ…
目の前に野生のトラでもいるような…ド迫力…
?「入りたいんだけど。」
「え」
?「バスケ部」
「えっ…」
…あぁ!入部希望ってことね!!
迫力に圧倒されて忘れてたわ。
「あぁ、歓迎!大歓迎!
ちょっと待って…」
日向君がお茶を渡してくれたので、受け取って目の前にいる彼に差し出す。
「知ってると思うけど…
ウチは去年できたばっかの新設校なの。
上級生はまだ2年だけだから、
君みたいに体格良ければ、多分すぐに」
?「そういうのいいよ。名前書いたら帰る。」
気になったんだけど。
さっきっから、こいつの態度は一体なんなの?
彼の記入している用紙に、目を落とすと…
“火神 大我”
「あら?志望動機はなし…?」
この、火神 大我という男は、飲み終えて空になった紙コップを、クシャッと潰したかと思うと…
「別にねぇよ。
どうせ日本のバスケなんて、
どこも一緒だろ…」
そう言うと、後ろにあるゴミ箱にノールックでゴミを投げ入れた。
「ふん…」
私は、校舎の方に向かう彼の背中をただ見ていた。
「怖ぇ〜あれで高一?」
「なかなかの逸材だな。」
「はっ!オマエ!
今までどこに隠れてたんだよぉ!」
「火神 大我…中学はアメリカか。
本場仕込みだな。」
私はずっと彼の後ろ姿を見ていた。
見た目だけでも、並の選手とはかけ離れてるのは明らか。
バスケに打ち込む姿勢…みたいなのはあるようだけれど。
そこから、ちょっとクサったところが垣間見えてるような気もする。
正直、かなり心配だわ…
「どっちにしろ、
ただ者じゃなさそうね。」
「よう。」
「「 ん? 」」
誰かに呼ばれた気がして、少し視線を下げた先。
声の根源と思われる場所に視界を移すと…
あ、小金井君か。忘れてたわ。