第69章 彼女の推し / 🌫️
次の日 ——
「すみません、この映画のムビチケ二枚お願いします」
「かしこまりました。お客様申し訳ありませんが、絵柄がこの一種類以外は完売となっております。よろしいですか?」
俺は今月中旬から公開されるアニメ映画のムビチケ…前売り券を購入する為に映画館に来ている。
「はい、構いません」
「ご了承ありがとうございます。では集合型のムビチケ二枚、三千円ですね」
★
あー良かった。何とか買えた。
普段はオンラインでチケットを買うんだけど、この映画は劇場窓口で買いたかったんだよな。
手元のムビチケにはこの作品の主人公が中心に書かれており、その周りに敵や味方のキャラクター達が勢揃いしているデザインだ。
両親は早々と八枚セットの限定品を購入したらしい。
二人で四回ずつ行くんだってさ。
母さんは天才と評されるキャラクターが俺と無一郎にそっくりだから、他人とは思えないと言っていた。
こいつ見た目は確かに俺にも似てるかもだけど、中身は完全に無一郎だよな。
【俺もようやくムビチケ買ったよ。彼女と観てくるわ】
スマホを手に持ち、アプリ画面を開いてメッセージを送信した。送った相手は沢渡だ。
「返信、はや!」
送信して五分もしない内にスマホが震える。
【そっかー、彼女さんもあのキャラにハマってくれると良いな♡私は二枚買ったから最低二回は観に行く予定だよ】
ふーん、二枚しか買ってないんだ。何か意外…。さっき沢渡に送った文面と全く同じメッセージを今度は無一郎に送信する。
あいつは返信遅めだから、すぐには来ないだろ。
ホーム画面を閉じた俺は、映画館を出て駅への道を歩く。
今年の夏も暑いんだろうな。
彼女にもムビチケを買ったとメッセージをし、バイト先の「ひょっとこ」へ行った。
〜終わり〜