恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
降って湧いたような2人での外出。
隣に無一郎がいること以外はただの買い物なのだが、ゆずはの心臓は全力疾走した後のようにずっと早鐘を打っており、どうすることもできない。
そして、外に出てからある後悔がこみ上げてきていた。
視線を落とすと嫌でも目に入る自分の服装だ。
いつもの買い物感覚で出てきてしまったので、隠の黒装束の上に割烹着。飾り気も何もない服だ。
こんなことならもっと可愛い服を……
いやいや、でもそんな格好をして無一郎さんに浮かれてるなんて呆れられたら凹む。
フルフルと首を振って今度はちらりと無一郎の顔を窺う。
無一郎さんはどうしていきなり一緒に行くなんて言い出したんだろう?
だがいつもの無表情でその真意はちっとも読めなかった。
「どうしたの?」
「い、いいえ!な、何でもありませんので!」
ゆずはの視線に気づいた無一郎が首を傾げてこちらを覗き込みそうになり、慌てたゆずはは咄嗟に赤くなった頬を隠すように顔を背ける。
だ、ダメ、集中しないと!
このお買い物は任務、
ちゃんと遂行するのが私の仕事、しっかりしなくちゃ、ゆずは……!
深呼吸しても変わらず心は落ち着かなかったが、ゆずはは気を取り直して歩き出した。
一方、ゆずはの隣を歩く無一郎は表情には出ていないものの、胸の中に重なる澱みを感じていた。
ゆずはの様子がいつもと違う。
目が泳いでいて落ち着きがないし、顔も赤くなってる。
それに全然目が合わない。
それがなんとなく嫌で顔を見ようと思ったら、
「い、いいえ! な、何でもありませんので!」
そう言って勢いよく顔を背けたゆずはに無一郎の胸中は更に濁った。