恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
「無一郎さん! 継子達が集まりましたー!」
そう言ってゆずははグイグイと無一郎の布団を握って引っ張った。
布団の中にくるまっている無一郎の体は、少しも布団から出てこない。
「……いいよ、どうせアイツら強くならない…」
布団の中でくぐもった無一郎の声が力無く聞こえる。
確かに先刻まで鬼狩りをしていたのだ。
ゆっくり休ませてあげたい気持ちはある。
だけど継子を育てるのも、柱の立派な任務だ。
ギューっと布団を引っ張っても、無一郎は出てこない。
ゆずはは一旦布団を引っ張っていた力を緩める。
『こんな時は……』
「はぁ…無一郎さん…、今日の夕餉は……」
「ふろふき大根?」
ゆずはが言い終わる前に、無一郎がバッと布団から出て来た。
無邪気な期待の目をした無一郎を見ながら、ゆずははニッコリ笑った。
「それは…『霞柱様』次第です…」
無一郎のよれた襟を直しながら、ゆずはは言った。
「……すぐに終わらせてくる」
「…………」
すぐに終わらせてはダメだろう…。
ゆずはは笑みを崩さずに、用意を始める無一郎を見ながらスッと腰を上げた。
「あ、ゆずは」
部屋を出ようとするゆずはを無一郎が引き止めた。
自分の元に近付いてくる無一郎を、黙って見ていた。
ゆずはの目の前まで来ると、無一郎はスッとゆずはの耳元に唇を寄せた。
「あのゆずの皮が乗ったふろふき大根がいい」
コソコソ話をする様に、優しい声色が鼓膜に響いた。
すぐに離れた無一郎の顔を見ると、大好物を食べることを夢見てねだる。子供の様な笑顔の無一郎が居た。
その無一郎の表情に、ゆずはは目を細めて笑った。
「もちろん」
そう言って笑顔で無一郎の部屋を出て行った。
過ごしやすかった季節は過ぎて、外は昼間でも息が白くなるほど寒くなっていた。
だけどあれだけ冷たかった心の隙間は……もう無かった。