恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
無一郎が出掛けたら休める訳では無い。
むしろやる事は増えるのだ。
鎹鴉がいつ、無一郎の知らせを伝えてくるか分からない。
その伝達に合わせて、帰って来る無一郎を迎えるまでひと時の安らぎも無い。
戻って来た無一郎が、何を1番に望むのか。
きっと汚れて帰って来るから湯浴みの準備はしておこう…。
お召し物はどれを好んで着るのか分からないから、数枚用意しておこう…。
先に寝間に向かわれるだろうか…。
それとも先にお食事を召し上がるのだろうか…。
もし…万が一お怪我が酷かったら、買い足しておいた薬や包帯は足りるだろうか…。
分からない…。
無一郎が何も言わないから。
だから無一郎を迎える用意だけで、全神経を集中させる。
『カァー、時透無一郎!任務終了!』
うたた寝をしていたゆずはがバッと起き上がった。
鎹鴉は何度か同じ言葉を繰り返しながらゆずはの頭上を飛び回ると、そのまま再び空に帰って行った。
外はまだ薄暗く黒い姿はすぐに空に溶け込んでいく。
(…良かった……今回もご無事だった……)
ほんの一瞬の安堵の気持ちを切り替えて、ゆずはは無一郎を迎える準備に屋敷を走り回る。
しばらくして無一郎が帰って来て、ゆずはは彼を迎えた。
鬼狩りの後の無一郎の表情はいつも胸を締め付けられる。
元々虹彩がハッキリとしていない綺麗な目は、更に無一郎の表情を無機質に思わせる。
そして普段から表情を見せないその瞳でさえ、憎悪の色が濃く映っている。