恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第60章 feliz cumpleaños / 🎴・🌫️ ✳︎✳︎
「無一郎くんが大好きだよ」
「俺の方が七瀬の事、好きだよ。大好き、凄く好き」
「ううん、私の方が好きだよ、自信ある」
「ふうん、そうなんだ」
互いに好きだと愛情を伝えあった俺と七瀬はこうして、二回目の情交へと歩みを進めた。
★
「七瀬、起きなよ。朝稽古の時間」
「………」
夏の夜明けは早い。
時間は早朝の五時半だ。雀がチュンチュンとさえずりを聞かせてくれる中、時折ジジ…と蝉が鳴く音も少しだけ耳に入る。
「七瀬、朝だよ」
「………」
ダメだなあ、全然起きないや。困ったなあと思案していた所へ宇髄さんの発言が脳内を横切る。
『知ってるか? 西洋のお伽話の一つに口付けで目覚めるっつーもんがあるらしい。時透は誰にすんだろーなあ?』
………。
あの人、教え方は上手だけど時々人をからかうのが好きだよね。ニヤニヤとしたり顔の音柱を手で払うように消す。
「ほら、起きて」
「ん、ぅん……」
昨晩たくさん触れたそこへ、ゆっくりと己の唇を当てると、朝でも甘い吐息が彼女の口からこぼれた。
今外で鳴いている雀のように、ちうちうとあてるだけの口付け。
最後に吸い上げ、舌で恋人の唇をツツ……と舐めると、ようやく大きな双眸が開いて俺をとらえる。
「おはよう、目……覚めた?」
「……うん、おはよう。ちょっとお姫様気分になったよ」
「なんだ、君知ってたの」
「えっ? 無一郎くんも? 意外……」
瞼を数回瞬きした君は両腕を伸ばして、俺を抱きしめてくれる。
「少し、好きになれるかも。君のおかげで」
「……何を?」
「夏だよ」
目を見開く七瀬に小さな口付けを素早く贈り、早々と布団から出て着替え始めた。
「早く用意して。稽古の量を倍にするよ」
「えっ……それはやだ」
「昨日もっと強くなるって言ってたの、誰?」
「んー、今は別……」
君が隣にいるだけで、大嫌いな季節もきっと少しずつ好きになれる。でも今夜は熱帯夜にならないと良いな。あの熱気だけは肌に合わない。
暦の上では秋だけど、まだまだ夏は続いていく。
着替えを一足先に終えた俺は、彼女にまた口付けを贈って庭に向かった。
〜無一郎と過ごす誕生日〜
終わり