恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第35章 He is neat ?/ 🌊
“誕生日おめでとう”
大学進学を機に一人暮らしを始めた俺にとって、その言葉を家族以外の誰かに言って貰えたのは4年、5年振りか。
「今日もお仕事頑張って下さいね。いってらっしゃい」
目の前の彼女がいつものように挨拶をしてくれた。
「ありがとう。また来る」
「はい!お待ちしています……」
暦の上で立春は過ぎたが、本格的な春はまだまだ先だ。
しかし、自分の胸は今、春の陽だまりのようにほんのりと温かくなっている。
「沢渡」
彼女の名前を初めて呼ぶ。
「え……」
思いがけない事が起きた—— そんな表情を彼女が自分に見せる。
「今度ひょっとこ焼きを食べに行く。また焼いてくれ…それから…誕生日を教えてくれないか。俺も沢渡におめでとうと言いたい」
「……ありがとうございます」
後日、彼女から会計の後にメッセージアプリのID番号が書いてあるメモを貰った。どうやら同じ2月生まれらしい。
彼女の誕生日当日、教えてもらった連絡先にメッセージを送る。
「誕生日おめでとう」
気の利いた言葉が言えない俺はこう打つのだけで精一杯だ。
彼女の返事はこうだった。
「冨岡さん、ありがとうございます!最高の1日&最高の1年が送れそうです♡」
語尾のハートマークに一瞬だけ胸が跳ね上がる。どういう事なのだろうか……考えても考えてもわからない。これは本人に聞いてみるしかない。今日は金曜日。
次にふじかさねマートで彼女と会えるのは来週の月曜日だ。
口下手な俺に出来るかどうか大分不安だが、気持ちだけは精一杯込めて……。
3日分の”おめでとう”を彼女に———
Giyu is neat?(義勇はニート?)
No, he is P.E. teacher.(いいえ、彼は体育の先生です)
and…(そして)
He is in love with a certain woman.
(彼はとある女性に恋をしています)
Two springs are just around the corner.
(2人の春はもうすぐそこ)
end.