第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「(まるで俺が他人に関心がないような言い方だな)」
専任の隠はいるが、基本的に一人で暮らしていた水柱。食事も湯浴みも鍛錬も自分だけで行う。
「(つい先日まではそうだった。だが今は…)」
弟弟子の炭治郎と、数回任務を共にした後輩隊士の七瀬が縁あって彼の継子になって、少し義勇の気持ちに変化が出始める。
「(鮭大根を三人で食べた時からだ。一人での食事が物足りないと感じるようになった)」
彼が客間の前を通る時に聞こえて来た会話。これは継子の二人が気持ちを通じ合わせた瞬間だった。
「(あいつらが恋仲になったのは喜ばしい事だが…少し腑に落ちないのは何故なのだろう)」
義勇は右手をゆっくりと胸に当てながら、静かに客間を通りすぎていくと、チクッと小さな小さな針で刺されるような痛みも体を通過していく。
「(そうか…俺は)」
彼が痛みの正体に気づいた時、ちょうど厨(くりや)へと辿り着いた。卓の上には紙の箱がポツンと寂しげに置かれている。
【師範へ
お団子、お先に頂きました。以心伝心の甘味は何でも美味しいですね。次回は師範のお好きな塩大福を買って来ます】
七瀬が書いた伝言の紙を視線で確認すると、箱から団子を取り出した義勇は一番上にのっている桃の団子をまず口に入れ、次に白い団子を続けて咀嚼した。
桃色は桜、白は冬の雪に喩えられると言う。
「(美味いが…これも二人と食べていたら、もっと…)」
最後に夏の新緑に喩えられた緑の団子を食べた義勇は、食べ終わった串を箱に戻して屑箱にゆっくりと入れる。
「(あいつらはまだ始まったばかりだ。好機はいずれ来るだろう)」
義勇の言う【好機】とは?
【難波津に 咲くやこの花 冬ごもり いまを春べと 咲くやこの花】
水柱と二人の継子。三人で過ごす日々もまた始まったばかりなのである。
〜炭治郎エンド〜 終わり