第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
それから十分程歩いて小間物屋に二人は着いた。
炭治郎は初めて来たようで店先に並んでいる商品をまじまじと見つめている。
そこには貝殻の形をした器がいくつか置かれている。これは何に使う物なのか七瀬に炭治郎は問いかけた。
「唇に塗る紅だよ。お化粧道具だね。師範に渡したら困惑されそうだから、これは控えようよ。私買っちゃおうかな〜」
「七瀬、さっき貯金にも回すって言ってなかったか?」
「…そうでした」
また今度にする。七瀬はややしょんぼりとした様子を見せながら、紅が入った貝殻の器を名残惜しげに陳列棚へとそっと戻す。
「椿油ってどこに置いてあるんだ? 使った事ないし、ここ来たのも初めてだから、俺全くわからないぞ?」
「ごめん、このお店来ると凄く気持ちが逸っちゃって、あれこれ欲しくなるんだ。でも今日は師範にあげる物を選びに来たんだもんね」
こっちだよ —— 七瀬は炭治郎を促し、置いてある方向を指差した。するとその先にいたのは。
「嫌だよ、湯浴みの度に塗らなきゃいけないなんて。面倒だし、手間だし…」
「そんな事言わないで下さい! こんなに綺麗でサラサラな髪なんですよ? もっと大事にしないと…」
「時透くん?? どうしてここに?」
「…炭治郎!?」
霞柱の時透無一郎とその継子の姿が、そこにあった。
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「ふうん、冨岡さんに椿油ね。良いんじゃない? あの人髪結んでても毛量が凄いし、ほどいた時とか寝起きは大変そう」
「そうなのか? 俺は髪が短いからわからないなあ」
炭治郎と無一郎が椿油を互いに手に持ちながら談笑している少し後ろで、七瀬と無一郎の継子はコソコソと会話を交わす。
「竈門くんと逢引きなんて、仲良いよねぇ」
「あ、逢引きとかそんなのじゃ…ないよ」
こちらの二人は先輩後輩の仲。継子としても同じように先輩後輩の関係となっている。