第71章 右手に陽光、左手に新月〜水柱ver.〜 / 🌊・🎴
「それってどう言う事ですか? 」
会話が噛み合わない事は義勇と接する時はよくあるが、さすがにこれはいきすぎだ。
七瀬の頭は混乱しており、次にどう言葉を出せば良いかが全くわからない。
「師範? さっきからおっしゃりたい事がよくわかりません。炭治郎の事は大切なんですよね」
「そうだ……お前もだ」
「え…」
思いもよらない水柱からの言葉だった。七瀬の思考が一旦止まるが——
「ありがとうございます…大切な継子って言って頂けて、とても嬉しいです。私も師範がとても大切です!」
義勇が珍しくがっかりと落ち込んだ仕草を見せた。深く長いため息に項垂れる頭。継子は師範を慕っていると言葉に出したのだが、上手く伝わっていない事に大層困惑した。
「(あれ? 迷惑って事…? どうしよう、泣きそうなんだけど)」
七瀬の鼻の奥がツンとするのと同時に、両の目尻から涙がポロリと流れ出た。
ハッとした義勇は思い切った行動に出る。
「そう言う意味じゃない。俺が言っているのは…」
「ん…っ!」
地面には昼間の太陽が映す重なり合う二人の影。七瀬の体を柔らかくもしっかりと抱きしめた義勇である。
「急にすまない、しかし俺はこれが一番伝わると考えた。嫌なら離れろ」
「…」
彼が言った通り、七瀬はこの抱擁で義勇が自分の事を継子以上の感情を抱いていると、たった今察していた。
先程までの会話の噛み合わなさ、炭治郎の名前を出したときの反応、それから ——
「師範、私…」
「好きだ…お前が…沢渡の事が」
「…嘘みたい」
ゆっくりと義勇の背中に回る細い両腕が、七瀬も同じ気持ちなのだと言う事実を表している。
「自覚したのは先ほどの決勝戦の前だからな。声をかけてくれただろう」
「本当に最近ですね」
【師範が勝つと私も信じている】七瀬は義勇にそう伝えていたのだ。