第3章 月詠の天下り
ここ数ヵ月、幸伸が住まう町に神隠しが相次いでいると噂が入った。
家にいるのにも関わらず忽然と姿を消すらしい。
そして、いなくなるのは女か子どものみ。
危ないから妻と子どもだけでもそちらで面倒を見てもらえないかということで、咲枝と3人の子どもたちと我が屋敷に匿うことになった。
子どもたちは不安な気持ちを抱えながらも、気丈に振る舞っていた。
しかし、夜はなかなか寝付けないようで時折厠へ行く足音が聞こえた。
そのたびに万が一に備えてと気を張っている美玲も景勝も眠ることができず、咲枝も子どもたちが気がかりで眠れなかった。
(早く下手人が捕まれば、あの子達も安心できますのに……。
でも、屋内にいても姿を消すって常人ではなせぬこと。
きっと、腕のたつものの仕業でしょう……。)
この屋敷に女 子どもは6人いる。そして、隣町からも有栖川家のように妻子を周辺の安全な場所へと預けるものが多くあるようで、いつこちらが狙われてもおかしくない状況。
気が抜けず、精神的にも体力的にも疲れは増すばかりであった。
人々も殺伐とし町全体にどんよりしたものを感じる。
今日もこの街は難なく夜を乗り越え、しばし気の緩める時間となるはずだった。
美玲は朝餉のあと景勝の部屋に呼ばれた。
「父上。美玲にございます入ってもよろしいでしょうか。」
「あぁ。入れ」
その声は低く真剣そのもので、何か深刻なことが起きたのかと察した。
襖を開けてその顔を見ると、今までにない景勝の悲しく鋭い眼差しを向ける姿があった。
入れと促され、畳二枚分はなれたところに着座した。
「美玲…………
今朝、…………連絡がきた……。」
「幸伸が……、
死んだ。」