第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
幸いにも月城は直ぐに見つかった。
さっきの居酒屋から月城のアパートの中間にある大きな川に架かる橋の上で、一人流れる川を眺めている。
走って来た為少し呼吸を整えてから、ゆっくり月城の方へ歩いて行った。
「風邪ひくぞ」
月城の白い膝丈のコートを肩からそっとかけてやる。
「っ……伊黒くん…」
ハッと振り返った彼女は泣いてこそいなかったが、その瞳はどこか哀しげに揺れていた。
「ごめんね、鞄とか…。私急にお店出ちゃったから…」
「いや、いい。気にするな」
「皆は…大丈夫かな。お店の衝立壊しちゃったけど…」
「大丈夫だ。多分胡蝶が上手くやるだろう」
「そうだね。頼りになるねしのぶちゃんは」
そう言うと、月城はまた流れる川に視線を落とす。
こういう時、何と声をかけてやればいいのか。
下手に取り繕った言葉で慰めてもその場凌ぎにしかならない。
けれど、今の彼女は消えてしまいそうに頼りなくて、
1人になんて出来なくて、側にいてやりたいと思った。
お互い黙ったまま、時間だけが過ぎていく。
その間、俺達の側を数台の車が通り過ぎて行った。
「……なんとなく…分かってはいたんだけどね…」
月城が、静かに話し始めた。
「お互い気持ちがちょっとずつ離れてるような、そういう感じはしてたの。そのうちに今まで見向きもしなかったブランド物のハンカチなんか使うようになってて…あれ?って思って。
そしたら今度は香水つけ始めて…
次の日会社行ったら、竹下さんから同じ香水の香りがしたから…
もしかしたら…そうなのかなって思ってた」
「ずっと前から、知ってたのか」
「知ってたって言うか、疑ってた。直接見てないから確信が持てなくて。でも、当たっちゃったね。あーあ、女の感って怖いね」
月城は、はぁ…と深いため息を吐いた。