第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
まさか俺達が隣にいるなんて思ってもいないのだろう。
2人共俺達に全く気付くことなく会話を続けていく。
『部署異動すると大変でしょ。人間関係とか』
『そうなんです〜!瀬田さんが居てくれればいいのにぃ!』
『急な異動は難しいかな。ごめんね?』
『いいですよぉ、やっと慣れて来ましたし。それにうちの部署の男の人なんて何か物あげとけば皆優しくしてくれますよ。チョロいですよねぇ』
『うわ、言うね〜!』
俺と冨岡は顔を見合わせた。
先程のハンカチ
コレの事か?と。
いや、これはもしかしたら俺達の他にも何人か渡しているのかもしれない。
『瀬田さん今日良かったんですか?月城さんと会わなくて』
『うん、大丈夫だよ。出張って言ってあるから』
『いつも出張って言ってますよね。それ大丈夫です?』
『気付いてないって!バレなきゃ平気だよ。それに俺は竹下さんといる方が楽しいし』
『ええ〜やだもぉ〜!』
なんなんだコイツらは。
言いたい放題言ってくれる。
だんだん腹立たしくなって来た。
『あ、そういえば月城さんから貰った誕生日プレゼントって何だったんですか?』
『あぁ、マフラー貰ったんだよ』
『いいじゃないですかぁ今の時期なら』
『それがさぁ、手作りなんだって』
『えっ手作りですかぁ⁈ちょっと重くないですかぁ?』
『だよねー。そこまでしなくてもって感じだよなぁ』
それは月城も気にしていた事で…
よくもそんな事が言えるな…
月城が、どんな思いで作っていたのか、少しでも考えなかったのだろうか。
俺は怒りに任せ爪が白くなる程拳を握る。
不死川と胡蝶の額には青筋が立ち、冨岡は無表情のまま手に持っていた割り箸を静かに折った。
皆それぞれ、己の怒りの感情を露にする。
月城は静かに、只々黙って2人の会話を聞いていた。
その表情からはもう何も感じ取れない程“無“になっていた。
そんな俺達の事などお構い無しに2人は更に続ける。