第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
皆で飲みに行ってから2週間ほど経った。
俺は相変わらず昼休みは屋上で過ごしている。
月城も屋上によく来るようになった。
他愛も無い話をするこの時間が楽しい。
月城もそう思ってくれてるといいと思った。
一緒に話しながら時折り見せる笑顔に鼓動がトクンとなる。
つい言ってしまいそうになるも、この気持ちを口に出す事は出来なかった。
言ってしまったら今の関係が崩れてしまいそうで怖かったから。
気付いてしまった恋心を胸に仕舞い込み、今日も俺はこの貴重な楽しい時間を過ごす。
「順調そうだな」
「うん、あと三分の一くらいかなぁ」
最近月城は屋上に毛糸と編み棒を持ち込み、せっせと編み物をしている。
最初は紙袋に大量の毛玉が入っていただけだったのだが、段々と数も減り、編んでいるものも形になってきていた。
「今時手作りのマフラーなんて…重いかな?」
編みながら、月城がぽつりと呟いた。
今編んでいるのは『彼氏への誕生日プレゼント』なのだそうだ。
重いなんて、そんな事ないだろう。
「好きな子が自分のために作ってくれるんだ。俺だったら、嬉しくてたまらないよ」
もしそれを俺が貰えるなら、嬉しくて舞い上がりそうだ。
そう思ったのだ。
俺がそう言うと、月城は驚いた後、ふわりと柔らかく笑った。
「伊黒くんは、優しいね」
「そうか?」
「うん、とっても優しいよ。伊黒くんの彼女が羨ましくなっちゃうな」
「生憎今は彼女はいない」
「えっ!そうなの⁈」
「あぁ、大学の頃はいたが、会社に入ってからはいないな」
「そうなんだぁ」
俺に彼女がいないと知って、何故か嬉しそうに笑う月城。
その真意は分からなかった。