第1章 ほんとの気持ち 冨岡義勇
他に想う人……今の胡蝶の話だと、それが俺の可能性もあると胡蝶は言いたいのだろうか。
「後は…、ご自分の思いをぶつけてみましょう。当たって砕けろです!」
「何故砕ける前提なんだ」
「その方が上手く行った時の喜びが増しますよ?頑張って下さいね、冨岡さん」
思いをぶつけるか…
何もしないで嘆いているより余程良いかもしれない。
「ぶつけてくる。胡蝶、感謝する」
「いいえ、思った事を言っただけですので。冨岡さん、紗夜に会うなら一つ渡して欲しいものがあるんです」
「?」
胡蝶は大きな箪笥の引き出しを開けたり閉めたりしている。
「ここに入れた筈なんですが…見つかりませんね。私としたことが…」
何かを探している様なのだが、中々見つからないらしく、その開け閉めの振動で上に置いてある分厚い本が……
「…胡蝶っ!」
バサバサッ
ガンッ
ゴッ
「い"っ……」
「冨岡さんっ…」
数冊の医学書やらが胡蝶目掛けて落下してきた。
咄嗟に庇い、胡蝶は無事だった様だが俺の頭に本の背表紙が直撃した様だ。
猛烈に頭が痛い。
「すみません!大丈夫ですか⁉︎」
「…大丈夫だ。胡蝶は大丈夫か?」
「私は全く…」
「ならいい」
ここで気付いた。
庇った事で胡蝶を抱きしめる様な形になっていたらしい。
離れなければ、そう思った正にその時…
「あの…」
今一番見られてはいけない人物、紗夜がそこに立っていたのだ。
「紗夜…」
「私、機能回復訓練ノ手伝イニ行ッテ来マス。デハゴユックリ」
言葉がおかしい。
明らかに動揺している。
俺達もそんな紗夜を止められず、紗夜はそのまま行ってしまった。
「勘違いしましたね」
「恐らく」
「冨岡さんこれを」
探し物はこれか。
胡蝶がさっき言っていたものを俺に託す。
「頼みましたよ。さっきの状況説明もちゃんとして来て下さいね」
「…承知した」
「大丈夫ですよ。全て上手くいきます」
そう言った胡蝶はあのいつもの余裕の笑顔だった。
胡蝶から預かったものを隊服のポケットに入れ、俺は紗夜の後を追いかけた。