第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
社員食堂で昼食を食べた後、午後の始業時間まで会社の屋上で過ごす。
それが俺の最近のルーティンだ。
程よい風も通るし、ここからの眺めは中々いい。
そして何より今は紅葉の季節。
向こうに見える山全体が赤や黄色に染まり、もはやこれは絶景と言えよう。
ここは中々の穴場スポットだと思う。
屋上でまだ一度も誰かに会った事はないので、きっと皆知らないのだろう。
不死川辺りになら教えてやってもいいかと思うが、まぁまた今度にしよう。
柵に寄り掛かりながら頬杖をつき、何となく景色を眺めていると、トントンと屋上に登ってくる足音が聞こえて来た。
ん?屋上に誰か来るなんて珍しいな…
キィ…と言う少し錆びついた音と共に屋上の扉が開かれ、誰かが顔を覗かせた。
「あれ、伊黒くん?」
振り向くと、そこには同期の月城紗夜が立っていた。
俺と目が合うと手を振り、トコトコと此方へやって来る。
「昼休みいつも居ないと思ったらここにいたんだね」
「ああ、誰も居ないし、ゆっくり出来るからな」
「あ、ごめん!私違うとこ行こうか?」
「いや、お前なら別に構わない」
「そっか、じゃあ遠慮なく」
月城とは同じ年に一緒に入社した同期だ。
同じ部署で、俺のデスクと向かい合わせの斜め前のデスクでいつも仕事をしている。
中々気さくな奴で、気遣いも出来るし、話しやすい。
同期の中では割と気に入っている。
「お前がこんな所に来るなんて珍しいな」
「いや〜午前中のプレゼンで疲れちゃって。ちょっと外の空気吸ってリフレッシュしようかと思ったの」
「お前は…確か冨岡と組んでたな。アイツじゃ大変だっただろう」
「あー、うーん、まぁちゃんとOKもらったし、……結果オーライかな⁈」
同じく同期の冨岡は、結構な口下手だ。
おそらくその冨岡が何かしでかしたのだろう。
月城はさっきのプレゼンを思い出しているのか若干苦笑いを浮かべていた。