第3章 君の笑顔が好きだから 煉獄杏寿郎
紗夜を見送ってから半刻後、同じく遠方の任務に向かう杏寿郎を、槇寿郎と千寿郎が見送った。
その後庭へと移動し、千寿郎は素振りを始める。
槇寿郎は縁側に座りその様子を見ていた。
今日は千寿郎の稽古を付けてやると約束していたのだ。
兄の様な剣才には恵まれなかったが、それでも“強くなりたい“と努力を重ね、直向きに頑張れる我慢強さが千寿郎の良い所だと槇寿郎は思っている。
「千寿郎!もう少し肩の力を抜きなさい!」
「はい!父上!」
千寿郎の様子を見ながら、槇寿郎は先程の杏寿郎とのやり取りを思い出していた。
2人の気持ちには既に気が付いていた。
同じ家に住んでいるのだし、それにあの2人は素直で分かりやすかった。
お互い好きがダダ漏れているのだから。
気付いてなかったのは本人達くらいだろう。
まだまだ子供だと思っていたが、杏寿郎もそんな歳になったのかとしみじみ思う。
「道理で俺も歳を取るわけだな」
槇寿郎の呟きに、千寿郎は「え?」っと父の方へ振り向いた。
「父上、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。千寿郎!素振り三十回追加!それが終わったら、今度は打ち込みをするぞ!」
「はい!」
千寿郎は追加された素振り三十回を一生懸命頑張った。
槇寿郎は空を見上げた。
今日も青々と晴れ渡り、なんて清々しいのだろう。
この青く澄んだ空の上から、見ていてくれているだろうか。
私達の愛する息子が、最愛の人を見つけたんだ。
とても素直で優しい、芯のある素敵な子だ。
君に少し、似ているだろうか。
「どうか、2人を見守ってやってくれ、瑠火」
fin.