第1章 ほんとの気持ち 冨岡義勇
手伝う、と言うのは口実で、本当はただ一緒にいたかっただけだ。
人を好きになると、自分もこんな気持ちになるのかとやや戸惑いながらも、俺はこの気持ちを大切に温めている。
いつかは伝えたいとは思ってはいるが……
「いい天気ですねー!よく乾きそう!」
「そうだな」
「あ、義勇さんもっとパンパンってしてください」
「…こうか?」
「そうです!上手に出来ましたね!えらいえらい!」
「……」
……俺の方が年上だよな?
不器用な俺の干し方に怒ったりせず、こうですよ〜と笑いながら紗夜がさりげなく直してくれる、そんな時間が俺は楽しかった。
作業効率は悪いかもしれないが……
そんな時、
「何やってんだァ?」
不死川がやって来た。
「実弥さん!こんにちは」
実弥さん…そんなに親しいのか。
「洗濯干してんのかァ?」
「はい。義勇さんと一緒に」
「冨岡じゃァ作業進まねェだろ。残りやってやるからよこせェ」
そう言うと、不死川はテキパキと洗濯物を干していき、さっきの俺たちの半分程の時間で残り全てを終わらせた。
「凄いです実弥さん!あの量をこの短時間で…しかも干し方綺麗!」
「こんなの慣れりゃ誰だってできるぞォ」
「不死川は見かけによらず器用なんだな」
「あ"ァ"⁉︎」
また俺は不死川の機嫌を損ねてしまった様だ。
もっと仲良くしたいのだが、難しいな。
「もう診察終わったんですか?」
「あァ、毎週来てんだから健康な事ぐらい分かんだろォ」
「自分で怪我作って毎週来るのは実弥さんだけです!
柱になったら怪我なんかしなくなるから殆どここに用なんか無いじゃないですか。だから皆さんの健康管理のためにしのぶさんが定期的に診る機会を作ってくれてるんですよ」
「そうかいそうかい、胡蝶も大変だなァ」
「もー他人事みたいに!」
紗夜の口調は怒っている様だが、その表情は柔らかく笑っていた。
不死川も俺に対する時とはまるで違う、穏やかな表情だった。
2人の様子に、俺の知らない信頼関係があるのだろうなと思った。
それを少し寂しく思いながら、俺は2人の会話には口を挟まず黙って聞いていた。