第1章 ほんとの気持ち 冨岡義勇
今日は蝶屋敷で柱の健康診断の日だ。
何でもない、ただの健康状態を診てもらう日。
だが俺の足取りは心無しか軽い。
何故なら、今日はあの子に会えるからだ。
「義勇さん!おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「今まだ悲鳴嶼さんが中で診察中なので、ちょっと待ってて下さいね!」
そう言ってにこやかに笑うのは月城紗夜。
蝶屋敷で暮らしている一般隊士で階級は甲。
初めて紗夜と合同任務に行った時。
同じ水の呼吸ということもあり合わせ易く、何よりその軽やかな身のこなしと流麗な剣裁きに俺は目を奪われてしまった。
その任務終了後、紗夜の方から稽古を付けて欲しいと申し出があり、他の隊士の時は迷わずいつも断っていたのだが、この紗夜の申し出は断る事なく引き受けた。
純粋に、もう少しこいつの技が見たいと思ったのだ。
それからお互い時間の空いた時に、俺は紗夜に稽古を付けている。
俺の口下手で語彙の少ない説明にも関わらず、紗夜はきちんと理解し、ちゃんと自分のものにしていく。
一度教えれば上手にこなす天才肌のようだったが、己に厳しく、人一倍鍛錬に励んでいた。
初めて会った頃から階級はぐんぐん上がり、今では柱候補とまで言われている。
そんな直向きに頑張る姿に、いつしか惹かれ、愛しく思うようになっていた。
俺は… 紗夜の事が好きだ。
「お前は今から何をするんだ?」
「洗濯物を干して来ます」
「俺も手伝う」
「1人で大丈夫ですよ?それに健康診断が…」
「時間は決まってない。干し終わってからでも問題ないだろう」
「そっか…じゃぁ、お願いします」
洗濯物を干す為、俺たちは外へ移動した。