第2章 幸せのカタチ 不死川実弥
町外れの道を、灯も持たずに月明かりを頼りに歩いていた。
「帰るの遅くなっちゃったなぁ。うわ〜もう真っ暗!早く帰らなきゃ!」
茶屋で働いている私は、いつもは夕方には家に帰るのだけれど、今日はお友達と一緒にご飯を食べて、ついお喋りが楽しくてすっかり遅くなってしまった。
暗い夜道を1人で帰る。
ちょっと心細いけど、家に帰ってもどうせ1人だ。
そうだ、いつもと変わらないじゃないか。
しかしこの暗さが寂しさを倍増させる。
早く帰ろうといつもより少し早足で歩いた。
「美味そうだなぁ…」
……え?
今、後ろで声がした。
何か、良くないものが、後ろにいる……
振り向きたくない
でも、確かめなきゃっ…
意を決して、私は恐る恐る後ろを振り向いた。
「ひひひっ…若い女だついてるぜぇ…」
「……ひぃっ!……」
一瞬で分かった、人じゃない!
月明かりでもそれはよく分かった
鋭く伸びた爪
ニヤリと笑う口元には牙が生えていた
聞いたことがある。
夜になると現れ、人を喰らい生きている、“鬼“と言うものがいるのだと。
それが今目の前にいるヤツと言うことなら、私の人生はここで終わるのか…
でも、そんなの嫌だ!
まだお茶屋のご主人と奥さんに恩返し出来てないもん!
それに、恋だって出来てない!
こんな所で死んでたまるか!
震える体に鞭打って、少しずつ後ろへ下がっていく。
でも恐怖の方が勝ってしまい、足が思うように動かない。
お願いだから足動いて…!
鬼がジリジリと此方へ寄ってくる。
「今喰ってやるからなお嬢ちゃん」
「…いやっ…来ないで!…きゃっ」
後退していた足がもつれ、その場で尻餅をついてしまった。
立とうにも足に力が入らない。
鬼はもう目の前まで来てしまった。
「っ……」
鬼に腕を掴まれ、もう逃げられない。
死ぬ覚悟を決め、目を閉じたその時ーーー
ーーーーヒュッ……ザンッ
……え?何?
恐る恐る目を開けると、目の前にいた鬼はボロボロに崩れていった。