第6章 あなたの愛に包まれて*前編* 宇髄天元
駅から徒歩10分、駅前大通りに面する全面ガラス張りの大きな美術館。
私はそこの受付でお仕事をしている。
『大人2枚お願いします』
「順路に沿ってお進み下さい」
朝からチケットやグッズ販売、館内の案内等の業務をこなし、気付けば時計はもう直ぐ17時になろうとしていた。
「紗夜さん、お疲れ様です」
「あ、しのぶさん。お疲れ様です」
「そろそろ17時になりますね。もう帰りのお支度してもらって大丈夫ですよ」
「しのぶさん、いつもすみません」
「気にしないで下さい。ほら、早くしないと。奏真(そうま)くんが待ちくたびれちゃいますよ」
そう言うと、しのぶさんはにこっと笑った。
「ふふ、ありがとうございます」
同じ受付嬢のしのぶさんのお言葉に甘えて、私はいそいそと帰り支度をし、美術館を出た。
歩くこと10分。
目的地に到着した私は、そこの鉄製の門扉を開けて中へ入る。
広ーい敷地に白い綺麗な一階建ての長い平屋の様な建物。
中からは子供達の元気な笑い声が聞こえて来る。
門から一番近い建物の壁には遠くからでも分かる様にでかでかと、この建物の名前が掲げられていた。
“キメツ保育園“
園庭を少し小走りで横切り、向かった先は『もも組さん』。
教室の前まで行くと、中にいた先生がこちらに気付いてくれた。
「おかえりなさーい!」
「ありがとうございます。奏真迎えに来ました」
「今呼びますね。奏真くん、お母さん来たよー」
名前を呼ばれると、ブロックで遊んでいた手を止め、パッと振り向く男の子。
私の姿を見つけると、ぱぁっと顔を輝かせ、一目散に駆け寄ってきた。
「ママー!」
「ただいま奏真!」
飛び込んで来た小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
この子は月城奏真。
5歳の元気な男の子。
私には、可愛い可愛い息子がいるのだ。