第1章 夏油傑は偶像崇拝の夢を見るか?
「お─────!傑!……と誰お前。って、叶夏か?!ブッハッッ何してんの?!クッソウケるじゃん!!!」
「あー叶夏、アンタ本当にアイドルの格好してんじゃん。かわいいかわいい」
突如として空気を切り裂いた場違いな声に、夏油は停止する。叶夏は「あー先輩方。お疲れ様です」、などと言いながら2人の方へと駆け寄る。硝子は叶夏が近くに来ると、可愛い可愛い後輩の頭をグリグリと撫で回す。
「硝子先輩。参考通りにしてみました。“ドキドキ”します?」
「いや別にドキドキはしねぇよ。本物のアイドルじゃないし。つーかドキドキっていうのはあくまでも一般論だから誰しもするわけじゃっないての」
「いや待って何このクソおもしれぇ状況。情報量多過ぎだろ。1から100までちょっと説明しろよ」
夏油は2人の登場により、一瞬にして蚊帳の外になる。しかし、硝子と叶夏の会話の節々から夏油の中でグルグルと嫌な思考が巡り、不穏な図の点と点が繋がる音がする。
「硝子、ひょっとして知っていたのか…叶夏のコレに」
「は?コレ?…あぁこの格好のこと?知ってるも何もストーカー野郎の臨床試験についてアドバイスしてたから知ってるよ。後はアイドルのこともな。よく知らないって言うもんだから」
「ドキドキ…っていうのは?」
「アイドルに何でそんなに執心するのかって聞かれて、『好きなアイドルにドキドキして恋してるみたいな感じになるから』って小学生でも分かるように簡単に説明した」
最悪の図が頭の中で完成した。夏油は頭を抱えるしか無かった。今までの出来事は全て叶夏の研究のの一環でしかなかったという事だったのだ。
治療の中で、夢とはいえ役になりきらなければならない事もあるだろう。要はアイドルという役になりきり、相手をドキドキさせるにはどうしたら良いのか試したかったのだ。
馬鹿みたいにときめいてしまった自分を今すぐ殴りたい。いや呪霊玉をやけ食いしたい。
「何かよく分かんねーけど、傑がそこまで可哀想なやつだったってことは分かったわ」
「…悟がそこまでクソだってことは知らなかったな」
バリ───────ン!!!とダイナミックに窓を突き破り、表(空中)に出た2人は、空中戦にて取っ組み合いを始める。
それを見ながら「アホだね〜」と硝子は呟きながら横に立つ叶夏に目をやる。