第1章 夏油傑は偶像崇拝の夢を見るか?
「両方とも事実なので気にしてません。只、五条先輩には、後々夢にお邪魔して“ちょっと弄らせて”もらいました」
「ひょっとしてこの前の夜 悟の部屋から『ババアの蟻地獄ッッ!!!!!』って叫び声聞こえたの、アレ君のせいか」
「はてさて何のことやらサッパリ」
しっかりきっかり五条にムカつき、えげつない報復をする叶夏に思わず身震いをする夏油。一体どんな夢だったのか、あまり考えたくない。
「でも、個人的に私は気になるな。結果はどうあれ、凄く良い考えだと思うよ」
「おやそうですか。先輩がそう言うなら最大限頑張ってみます」
叶夏はそう言いながら、眉1つ動かさず筋肉ムキムキポーズを決める。やる気が出たのかどうか分からないが、とりあえず励ませた様なのでまぁ良いかと夏油は思う。
叶夏は話終わって暇になり、「ラムちゃんの真似です」となどと言いながら、ふよふよ浮きながらくるくる回って遊び始める。 さっきの謎のやる気はどうした、と夏油は苦笑を浮かべた。
「ところで、さっきのストーカー男の話はどうなったんだい?問題は解決したのか?」
「それはまだ解決しそうにないですね。ストーカー男性のアイドルへの愛情は、既にかなり拗れてました。あれはもうファンとしての愛、ではなくて“信仰と執着”ですね」
「信仰と執着?」
両膝を抱えた姿勢で逆さまになりながら話す叶夏は、少し目を丸くした夏油の顔に口角を上げる。
「時に夏油先輩。アイドルの語源をご存知ですか?」
「いや、聞いた事ないな」
「元々アイドルは“偶像崇拝”を指す言葉なんですよ」
「!」
アイドル(idol)の語源は遥か昔、ラテン語の『偶像崇拝』から来ているとされる。英語でも、『崇拝される人や物』『憧れの的』『熱狂的なファンをもつ人』を指すものとして用いられているという。
「言い得て妙ですよね。人々から強い信仰と崇拝、愛を受けるものとしては、神とアイドルは似てますもんね」
「話の流れからすると、もはや皮肉にしか聞こえないな。アイドルからすれば、ただの同じ人間なのに勝手に崇拝されて執着されて、たまったもんじゃない」
「しかし男性からすれば、神にも等しい存在だったんですよ」