第1章 夏油傑は偶像崇拝の夢を見るか?
夏油は説明されて余計混乱した。こんな事は初めてだ。説明されて益々訳が分からないとは、と寧ろ感動さえした。
夏油は痛む顬を抑えながら、彼女の説明を噛み砕いて理解してみようとする。しかしそんな事を知ってか知らずか、叶夏は呑気な口調で先を続ける。
「そう言うわけです先輩。ちなみに今の私も夢ですよ」
「え?」
「夢ですよ。本体じゃないです。お見せしましょうか」
「えっ??」
またもや夏油がサラッと投げてきた叶夏のトンデモ発言に面食らう。『何言ってんだコイツは』なんて考えている間に、叶夏はガラッと教室の窓を開け放ち、窓の縁へと腰掛ける。夏油は嫌な予感にぶわっと冷や汗が湧く。
「では」
そう言うと、叶夏は躊躇無く窓から飛び降りた。
───────
「あれ?おかしいな。どこか引っ掛かった?」
「おかしいのはっ…叶夏の頭の方だろう…っ」
「あれ先輩 何してるんですか?」
「それも君の方だろっ!!」
火事場の馬鹿力とでも言うのか、夏油の反射神経は驚きの速さ見せ、間一髪で叶夏の腕を掴み窮地を脱した。ぷらんとぶら下がっている状態の叶夏は呑気な表情で夏油を見詰める。
「全く…!今私の呪霊を出して引き上げるから、」
「先輩良いですよ。手を離して下さい」
「良いわけない、!だ、ろ……」
怒りで語気が強まっていた夏油だが、目の前の光景に途切れていく。
一瞬、ふわりと彼女の身体が浮き上がったかと思うと、何時の間にか夏油の目線の高さに、叶夏の顔があった。
叶夏は────空中で浮いたまま静止している。
彼女の術式───『夢操術』。
夢を自由に操り、他者の夢に入り込むことが出来る術式である。現在使用している夢操術・『白昼夢』は、夢を見ながら魂を乖離させ、呪力で練り上げた自分の分身を操作している状態なのだ。要は“幽体離脱”に近しい。本体と同様に身体の質量があるが、空中を歩くことや空を飛ぶことも、夢の中なら容易い。彼女は呆けた顔をする夏油を見ながら、バツが悪いのか頬を掻く。
「大丈夫って言ったじゃないですか」
「…………大丈夫とは言ってないよ」
「そうでしたっけ?でも何だかすみません。ご心配かけたみたいで」
「いや、こちらこそ余計な事をしたね」