第10章 ストラップの行方
「スーツのオッサン!出口は仲間が見張ってっからもう逃げられねーぞー!」
一番近くを歩く元太の頑張っている声が聞こえる
時間も時間だから帰って行く人も少しずつ目に入る様になってきたし、これだけ叫んで回っていればそろそろ売店に顔を出す頃だと思うけど…
「叶音…」
「うん、いたね…」
汗だくで売店に入ろうとするワイシャツ姿の男を見つけた
ズボンはふくらはぎまでまくっているが、靴は革靴のまま…腕にはスーツの上着とハンチング帽を小さくたたんで見えないように抱えている
「透兄ちゃん、ボクお店見たーい!」
「仕方ないなぁ…見るだけだぞ?」
わーい!と子どもを装い、手を繋いだまま零を引っ張るように売店に入った
男に気付いていないフリをしなければならない為接近はできず、おもちゃコーナーの棚の方を向いて男に背を向けた
予想通り男は真っ先に衣類コーナーへと行き、上着と半ズボンを見繕っている
周りを警戒する素振りも怪しさ満点である
「あ!あっちにお魚さんのキラキラしたのがある!」
男がブースを移動する度にオレ達も男が見える位置へと場所を変えた
オレが魚のスノードームを触っている間に、男はビーチサンダルとキャップ帽、サングラス、そして海水浴場の名前が入った肩掛けのバッグを選んでレジへと向かった
「へぇ、懐かしい。ウォーターリングゲームまで置いてあるのか」
「それおもしろそう!」
零が手にしたおもちゃを見て、今でも売ってるんだなぁと懐かしさから遊びたくなったが、その前にコナンに連絡を入れなければ…
『ここのロゴ入りキャップ帽、サングラス、緑の上着、ビーチサンダル、ズボンはふくらはぎまでまくってて、半ズボンを買ってるから更衣室に行くと思う。ロゴ入りの肩がけバッグも購入してるからすぐわかるはず』
素早くメールに打ち込んで送った
男は会計を済ませると買いたての帽子をすぐに被りそそくさと売店を出ていく
「透兄ちゃん、お母さんから戻ってきなさいってメール…が…」
スマホを見ていた目を零に向けると、零の手にはウォーターリングゲームが6つ…
「…み、みんな欲しいかな~とか思ったり…」
「見るだけって言ったの透兄ちゃんなのに!!」
たまに子どもっぽくなる様子に遊びたいのは零でしょって思いつつも、オレも何十年ぶりかに遊びたくなってそのまま零と一緒にレジに向かった