第9章 純黒の悪夢
「我慢せず泣いたらいい」
「え、大丈夫…だよ?」
泣きそうな顔をしていると言うが、まさかこのタイミングで泣きそうになるなんてそんなことはないと思った
零は無事に逃げ出せたけど、まだ奴らは零を疑っている
そしてこれからキュラソー奪還の為に東都水族館に向かう公安に仕掛けてくるんだ、まだ油断はできないし、次の事を考えなきゃなのに…
「降谷君が無事で良かったな…」
「……ッ!」
そう言われて目から熱い物が一粒二粒と溢れ、自分が本当に泣きそうな顔をしていたんだとようやく理解をした
泣くのをとめようとグッと唇を噛み目を強く瞑るが、頬を伝ってポタポタと流れ落ちる涙は止まることを知らない
「うぅ…ッ」
ぎゅっと赤井の首にしがみつき、肩の向こうで涙を流した
「ずっと気を張っていたんだろう」
歩き出しながら優しく掛けられる声に、溜めてしまっていた気持ちが涙で溢れていく
家の玄関で見た零のありがとうの顔が、もしかしたら最後になるかもって思ってた
でも思わぬ所で遭遇して、ベルモットに連れて行かれる零の険しい顔、倉庫で拘束された覚悟を決めていた様な顔、あんな零を見たら、苦しくって…絶対最後にしてたまるかって思ってさ…
水無が撃たれた時には次は零なんじゃないかってすごく不安で、もし撃たれていたらオレはたぶん正気ではいられなかったと思う
だからライフルを撃った後に零の姿が消えたのを見て、心配はあったけど、すごくホッとした
一時しのぎに過ぎないかもしれないけど、血を流すことなく逃げることができた…今はただ、その事実だけでいい…
「泣けるうちに泣いたらいい。東都水族館に着いたらそんな暇はないからな」
「ありがっ…と…っ」
抱きついていた腕に再び力を入れると、赤井は「ふぅ…」と息を吐く
「こんな所を降谷君に見られたら殴り殺されてしまいそうだ」
「う…ごめっ…」
その「ごめん」は殴られてくれと言っているのか?なんて笑い混じりに言われ、オレもフフっと笑い出す
だからといって降ろされる訳でもなく、ただただ優しく頭を撫でてくれる赤井
ありがとう…赤井がいなかったら、オレだけではどうしようもなかった…
背中を撫でながら歩いてくれる赤井に今だけと思って甘えているけど、いつまでも泣いてなんかいられない
残りの車までの距離で呼吸を整えよう…
早く零に、会いたいな…
