第1章 一度見た世界
連れ出してくれたミカサには感謝しかない。
あんな光景、見ていて気分の良いものではないから。
なんの成果も!!
得られませんでした!!
私が無能なばかりに……!!
ただいたずらに兵士を死なせ…!!
ヤツらの正体を…!!
突きとめることができませんでした!!
そんなに苦しむくらいならいっそ─────、
パコォーン!!!
物凄い音がしてエレナの意識が一気に現実へと引き戻される。
「何すんだよ!!薪が散ったじゃねぇか!」
それはミカサによってエレンが壁に叩きつけられた音だった。
とても少女とは思えない程の力だった。
きっとミカサなりのエレンへの気遣いだったんだろう。
やり方は少々…いや、かなり荒々しいけれど……。
「調査兵団に入りたいって気持ちは…変わった……!!」
「……!!」
しばらく両者の睨み合いが続いた。
気の弱いエレナは自分に飛び火しない事を願った。
「手伝えよ拾うの…」
見えない火花が散る。
両者の譲れない意見のぶつかり合いに挟まれながら帰る家路はとても精神が擦り減るものであった。
エレナにとっては特に……。
ミカサが玄関のドアを開けて先に中に入るとエレンは中に入らずエレナの方へ振り返った。
「エレナ、お前は反対しないよな。」
『え…?』
「だって俺たちは双子だし、俺はお前でお前は俺なんだから」
『う、うん……。反対…しないよ…』
「ならいい」
強い眼力でエレンはそう言い放つとやっと家の中へと入っていった。
エレンはいつも私に念押しする。
自分の意見に異論はないよな?と。
答えなんて分かっているはずなのに……。
きっと私が優柔不断だからなんだろう。
だけど、私が私の意思をエレンに押し通すはずがない。
だって私にはそんな資格なんてないのだから。
どうして…?分からない。
でもそう思ってしまう。
『ただいま』
「おかえりなさい」
「あら、エレナもお疲れさま」
グリシャとカルラに迎えられ、エレナは取ってきた薪を木箱へ移した。
そして顔を上げた時にテーブルの上にグリシャの外出用のバッグが置いてあるのに気づいた。
『あれ?お父さん今から出かけるの?』
「あぁ、2つ上の街に診療だ」