第1章 一度見た世界
「英雄の凱旋だ…!」
その鐘の音を聞いたエレンの瞳は急に輝き出した。
「行くぞエレナ、ミカサ!」
エレンは左手と右手でそれぞれエレナとミカサの手を掴むと周りの大人をものともせず、走りながら大通りへと向かった。
「クソー、人垣で見えねぇ」
そこは既に野次馬の人集りが出来ていた。
その中には調査兵団として今回の壁外調査へと向かった自分の家族の安否を確認する者達の姿もある。
三人は近くにあった箱の上に乗ると壁外調査から帰ってきた調査兵団達の姿が見えた。
しかし、輝かせたエレンの目に映ったのは調査兵団という思い描いた英雄の姿ではなく地獄だった。
100人で向かった調査兵団が無傷で帰ってきた兵士と身体の一部を失った重傷の負傷兵を合わせても20人に満たなかったという。
重い空気を纏いながら帰る調査兵団の列に一人の女性が駆け寄り、キース団長に縋り付く。
今回の壁外調査へ向かった兵士の中の一人の母親だろう。
「あの…息子のブラウンが見当たらないんですが……。息子は…どこでしょうか…⁈」
息子の無事を願う母親の元に届けられたのはその兵士の身体の一部だけであった。
彼女は布に包まれた息子の一部を胸に抱き、若くして亡くなった彼の無念に涙を流し、泣き叫んだ。
「息子は…役に立ったのですよね……」
「……!!」
「何か直接の手柄を立てたわけではなくても!!息子の死は!!人類の反撃の糧になったのですよね!!?」
緊張感漂う空気が流れる。
その場で吹く風の音が異様大きく感じた。
息を吸う音さえも周りに聞こえてしまうのではないかと思えるくらいに。
誰もがそのキース団長の回答を待っていた。
今回こそは多くの犠牲を払い、命を賭けた者達の死には意味があったのだと。
そう宣言出来る日になるのだと、
気づけば私達は大通りから離れたところに居た。
キース団長や調査兵団を非難した人にエレンが石を投げてそれを見たミカサがこのまま此処に居れば何か悪い事を起こすかもしれないと思い私達を連れ出したらしい。