第1章 一度見た世界
「ミカサに何か怒られたのか?……それともエレナに愛想尽かされたか?」
「は⁈何で俺がエレナに愛想尽かされるんだよ!…って酒くさ!!」
そんな酒の臭いを漂わせるハンネスの後ろでは同じく駐屯兵団の人達が酒を交わしていた。
「また…飲んでる…」
「お前らも一緒にどうだ?」
『ハンネスさん、私達まだ子供ですよ…』
「それもそうだったな!酒のせいですっかり忘れちまってたぜ」
無意識にエレンは拳を強く握りしめていた。
彼には分からなかった。
巨人に囲まれている壁の中で危機感を持てない人達の考え方を。
直ぐ様に私達はエレンを纏う空気が変わるのを感じた。
相変わらずハンネスは持ち前の話術で自分達がお酒を飲んでしまった事への屁理屈を述べる。
そんなハンネス達をエレンは強く睨みつける。
「違う、そんな話をしてるんじゃない…!そんなんでイザって時に戦えんのかよ⁈」
その一声を皮切りに賑やかにお酒を嗜んでいた兵団達も一気に静まり返る。
そしてハンネス達は顔を見合わせると不思議そうな顔をした。
「"イザ"って時って何だ?」
「……!!」
エレンはその言葉を聞いて怒りに震えた。
何故そんなにも楽観的なのかと問いただしたかった。
壁一枚を隔てた外には危険が待ち構えているのに。
いつまでもこの状況が続くとは限らないのに。
「何言ってんだよ、決まってんだろ!ヤツらが壁を壊して!!街に入って来た時だよ!!」
エレンの大声に思わずハンネスは頭を痛めた。
酒の入った頭にエレンの大声は堪えるらしい。
『エレン、ちょっと落ち着いて…』
「そうだぜエレン。それにもしヤツらが壁を壊すことがあったらそらしっかりやるさ。しかしな、そんな事100年間で一度もないんだぜ」
「で…でも!」
どんなにエレンが危機感の重要性を訴えても誰も聞く耳を持たなかった。
それは仕方のない事だった。