第1章 一度見た世界
暫く歩き続けて私達は街の方まで戻ってきていた。
シガンシナ区の中でもよく人が行き交い、賑やかな場所だ。
「ズズズッ…」
『「……、」』
未だにエレンは涙が止まらないらしく鼻を啜っている。
本人にも理由が分からないらしいので、私達はただ涙が自然に止まるのを待つ事しか出来ない。
「言うなよ……誰にも。俺が泣いてたとか…」
「言わない」
即答するミカサの返答を聞いた後バッとエレナを見て指を差した。
「エレナ、お前は忘れろ!いいな⁈」
『えっ…?あ、うん……』
忘れろ、か……。
私だってエレンが弱ってる時に頼れる人間の一人でありたい。
でもやっぱり私なんかよりもミカサの方がよっぽど頼りになるんだろうな……。
私達は双子なのに性格は真逆でエレンにとって私みたいなのは好きじゃないタイプなんだろう。
きっとミカサの方がエレンの双子に向いてる。
「エレン、急に大きな声出さないで。耳が壊れる」
ミカサが自分の耳を手で塞ぎながらエレンを非難する。
「はぁ?大袈裟だろミカサ。偶に俺がでけぇ声で話しかけたって都合の悪い事は聞こえない振りしてんの知ってんだからな」
「……」
図星を突かれ黙り込む。
その瞬間発動したそれは今言われた通りミカサの特技、"聞こえない振り"であった。
『その…理由もなく涙が出るって、もしかしたら目に何かしらの原因があるかもしれないし……。一度お父さんに見てもらった方が…』
「バカ言え!親父に言えるかこんなこと」
エレンはエレナの提案をバッサリ切ると一人でズンズンと早歩きで進んで行った。
男の子で年齢的に反抗期に差し掛かっていても可笑しくはないのでその理由にも頷ける。
エレンが進んでいった先によく見覚えのある姿があった。
「何泣いてんだエレン?」
「……!ハ…ハンネスさん」
暇潰しの話題が来たとハンネスは顔がニヤける。
エレン達を見かけてはからかったり話を聞いたりするのが楽しみでこれも彼にとっての日常の一つになっていた。