第1章 一度見た世界
ミカサはエレンの真前に立つとしゃがみ込んでエレンの名前を呼んだ。
「エレン」
全く反応がない。
「エレン、起きて」
肩を軽く揺さぶりながら名前を呼んでも起きない。
「エレン!」
少しミカサの声に怒りが混じったが、夢の中のエレンにはとっては知った事ではない。
ミカサは溜息を吐いて立ち上がるとエレナへと向き直った。
「これ以上私がやるとエレンに手を出し兼ねない。やはりエレンを起こすのはエレナが一番向いてる」
『う、うん。分かった……。起こしてみる』
ミカサは時々、エレンに対して容赦ない時があるので何かが起こる前に私が代わりを務める。
そして不思議な事にエレンはエレナの呼びかけだけには直ぐ反応するらしく、ミカサやカルラがエレンを起こすのに手こずる時もエレナの呼びかけで必ず目を覚ます。
その為必然的にエレンの目覚まし役はエレナの役割になっていた。
エレナは先程のミカサのようにエレンの真前にしゃがみ込むとその両頬にゆっくり手を添えて優しく話しかけた。
『"エレン、起きて"』
その呼びかけに反応するようにエレンは瞼をゆっくりと開く。
「……?」
自分の今の状況を把握出来ていないのか、まだ半分夢の中から帰ってきていないような顔だった。
「……あれ?エレナ、お前……、」
『……?』
「子供に…なったのか……?」
眠たい目を擦りながらそんな可笑しな事を言うエレンにエレナとミカサはお互いに目を合わせた。
『「………」』
「……!」
エレナの手を払い除けエレンの意識がようやく覚醒したところで自分が変な事を口走った事に気がつき、無意識に汗をかいた。
「そんなに寝惚けるまで熟睡してたの?」
「イヤッ…なんかすっげー長い夢を見ていた気がするんだけど……。何だったっけ、思い出せねぇな…」
エレナはそう言い背負子を背負うエレンの目から何かが流れている事に気づいた。
『エレン?どうして泣いてるの……?』
「え…?」
エレンは目の下に触れ、本当に自分の目から涙が流れていた事に気づいた。
「えっ…⁈」