第1章 一度見た世界
鳥は自由だ。
その翼でこの壁を越えてどこまでも自由に飛んで行ける。
私達の知らない世界、まだ見た事もない世界を沢山知っているのだろう。
一羽の白い鳥はその翼を羽ばたかせ、空へと飛び立った。
誰もが欲した自由の翼を持って。
『あっ……』
コロコロと薪が転がり落ちる。
エレナはスカートの裾が土で汚れてしまわないように気をつけながら落としてしまった薪を拾う為に地面へとしゃがむ。
拾った薪を背負子に乗せた後ゆっくりと立ち上がり空を見上げたが、あの鳥の姿はもう随分と小さくなっていた。
平凡な日常。
毎日エレンとミカサと薪を集めて、薪割りをして、アルミンと遊んで、それで疲れたら家に帰ってお父さんの帰りを待つ。そしてお母さんの作った温かくて美味しいご飯を家族皆んなで食べていつもと変わらない日々を過ごす。
それが今私達にとって最大限に与えられた幸せなんだと知りながら私達人類は壁の外への自由を求める。
多くの犠牲を払って……。
だけど私はふと思う時がある。
"壁の外は本当に自由なのか"と……、
何故かは分からない。
でもふとした時に心の根底からそんな疑問が湧く時があるのだ。
「エレナ。エレンが居ない」
ミカサが背負子の肩掛けに手をかけながら辺りをキョロキョロと見渡す。
その様子を見て自分が考え事をしている内にエレンが逸れてしまった事にようやく気づく。
『あれ……?本当だ』
「薪を探しているうちに一人だけ逸れてしまった。のかも、しれない」
二人は目を合わせて頷く。
エレナとミカサはいつもの薪拾いルートを全て探し回った。
「エレン、居た」
そう言いミカサが指差す方向には一本の大きな木とその下にはエレンの姿があった。
二人はゆっくりと近づくとある事に気づいた。
「寝てる」
『気持ち良さそうに寝てるけど起こさないといけないよね……』
「まだ家に着いてないから起こさないと駄目」
『……、うん』