第2章 再び始まる
「エレン、やめなさい」
一時の沈黙の中、両者の鋭い視線がぶつかる。
激情に駆られたエレンにはミカサの事など目に入っていなかった。
「………、オレが頭のめでたいヤツだとそう言いたいのかエレン?」
ジャンは椅子をエレンの方に向けて座り直す。
そして先程の軽々しかった態度とは打って変わり、先を見据えたような眼差しで話始めた。
「それは違うな…オレは誰よりも現実を見てる…」
そう──、ジャンが述べた事は現時点で最も正しいと言える程の正論であった。
四年前、超大型巨人と鎧の巨人によって壁が破壊された事によりウォール・マリアは崩壊しその領土を奪われた。
奪われた領土を奪還すべく人類の人口の二割を投入して調査兵団は総攻撃を仕掛けた──が、殆どの人間が巨人の餌となった。
一体の巨人を倒すまでにおよそ30人の兵士が犠牲になった。
その事実を踏まえた上で例えウォール・マリアを奪還出来たとしてもまた超大型巨人や鎧の巨人に壁を破壊された時、また人類は多くの犠牲を払いながら戦い続けなければならない。
人類がいくら命を賭けて巨人と戦おうともその巨大な脅威と数の前では勝ち目などないという事実。
言ってしまえば調査兵団のように巨人を倒して領土を奪い返そうという考え自体が無謀なのだ。
「もう十分わかった。人類は…巨人に勝てない…」
辺りは静けさと淀んだ空気が漂っている。
この沈黙こそがジャンの言っている事が正しいと結論づけているようだった。
「はぁ…見ろ。お前のせいでお通夜になっちまった」
頭を掻きながらため息を吐く。
これで話は終わりだと言いたげなジャンにエレンは腕を組みながら話の続きを催促した。
「それで?」
「はぁ?話聞いてたか?」
眉を顰めながら呆れるジャン。
エレンはそんな彼に射抜くような目を向けた。
「"勝てないと思うから諦める"ってとこまで聞いた」
「……。」
その言葉を聞いた瞬間ジャンの目が鋭く据わる。
正しく利口な選択だと思っている自分の考えを侮辱し全否定されたからだ。
「なぁ…諦めて良いことあるのか?あえて希望を捨ててまで現実逃避する方が良いのか?そもそも巨人に物量戦を挑んで負けるのは当たり前だ」