第2章 再び始まる
それはジャンという青年の声であった。
彼は上位10名の中で6位に選ばれた訓練兵──、つまりは憲兵団へ入団する選択肢を与えられた数少ない中の優秀な人材である。
そしてその隣にいるのはその下の7位に選ばれたマルコという青年。
憲兵団に入って内地で快適で安全な暮らしを手に入れたいという理由を述べるジャンと憲兵団として王の元で民を統制する仕事を誇りに思いながら入団を決めたというマルコの違いから始まった会話であった。
「言えよ本音を…内地に行けるからだろ?」
誇りを持って憲兵団に入団するヤツなどいない。
どんな理想や思想を連ねても結局はその先にある人としての安全に暮らしたい、裕福な暮らしを得たいという欲があるからこそ憲兵団を選ぶのだと。
人間の欲深さや保身の為からくるものだとジャンは演説する。
「オレ達が内地に住める機会なんてそうそうないぜ⁈それでも"人類の砦"とかいう美名のためにここに残るのか?」
最初は人間の欲望に忠実なジャンを軽蔑していた人達もそれを聞いて言葉を詰まらせた。
誰だって巨人の恐怖に怯えずに済むのならそれが一番であり、内地へいきたいと思ってしまうのも仕方がない、と。
「だよなぁ…。みんな内地に行きたいよな…」
だがそれを真っ向から否定する者が一人いた。
それは巨人の存在を誰よりも憎み、人間が家畜のような生き方を真っ当だと肯定する考えを嫌うエレンだった。
エレンは思わず席を立ち上がる。
「なぁ…内地が快適とか言ったな…。この街も5年前まで内地だったんだぞ」
ゆっくりと後ろへ振り返ったエレンはジャンに対して軽蔑した目を向けると言い放った。
「ジャン…内地に行かなくてもお前の脳内は"快適"だと思うぞ?」
そんな一触即発な空気に似合わない何かが吹き出された音とアルミンの悲鳴にすまん、と小さく謝る声が交わされる。
そんな二人のやり取りの前では不穏な空気を感じたミカサが感情的になりやすいエレンを止めに入ろうとしていた。