第1章 一度見た世界
アルミンは何故あの状況になったのか、鼻を啜りながら事の発端を話し始めた。
「──それで人類はいずれ外の世界に行くべきだって言ったら殴られた。…異端だって」
「くっそー、外に出たいってだけで何で白い目で見られるんだ」
エレンは愚痴るようにそう言うと八つ当たりするように川へ石を投げ入れた。
ポチャン、と音を立てたそれは今のエレンの心境のように水の底へ沈んでいった。
『…それは、そうだよ。だって人は変化が怖いから』
エレナは石が落ちた辺りに視線を向けたままぽつりと呟く。
膝の上で組んだ指を緩めたりキツく結んだりを繰り返えしていた。
『悪い事は勿論起こらない方が良いし、何か良い事が起きれば逆に悪い事も起こると思ってる。だから何も変わらない方が幸せだって、そう思ってしまうんだと思う。それに…』
淡い緑色の瞳に深い闇色の影がさす。
その瞳に映る水面の輝きがまるで汚泥のようだった。
『本当に外の世界が自由だと思うの?外の世界を知る事が幸せ…?ずっと壁の中にいる方が幸せかもしれないのに…』
「は…?何で…、エレナはそんな事が言えるんだ…?だってお前は──、」
「"壁の外に出た事がなのに"」
二人の間を静かに風が通り過ぎる。
エレナの顔を覗き込むエレンの瞳もまた同じく深い闇色に染まっていた。
「まぁ、エレナの言うことも一理あると僕は思う」
そんな重苦しい空気を振り払うようにアルミンは話し始めた。
「僕のひいおじいちゃんがくれた本に書かれてた外の世界…。何一つ僕らがこの目で見たわけじゃない。本当に存在するかもしれないし、もしかしたらエレナの言う事が正しいかもしれない。だけど僕らは実際に壁の外へ出て確かめる必要がある。僕らにはその権利があるはずだ」
アルミンは拳を強く握りしめた。
いつか自由を手に入れ、外の世界を自由に行き来できる自分達を思い描いて。
それに間感されていそうなエレンをミカサはじっと見つめた。
「絶対、駄目」
「…俺「駄目」」
断固として調査兵団への入団を許可しないミカサのガードは固かった。
言葉を遮られたエレンは発音出来なかった言葉の口のまま固まっていた。