第1章 一度見た世界
『エレン待って!』
こちらに構わずズンズンと早歩きで進んでいくエレンを追いかける。
『…待ってってば!』
呼びかけても見向きもしないエレンの手を勢いよく掴む。
ようやく立ち止まった。
そして必然的に引っ張られるようになり、後ろを振り返える。
『いくら何でもあんな言い方はないよ…』
俯きながらそう言うエレナにエレンは言い放った。
「お前だって本当はそう思ってたんだろ」
『…⁈そんな事、思ってないよ!』
「思ってたよ。だってお前は俺だから」
『そんな…こと…』
ない、と言いたかったけれど本当はそう思っていたのかもしれないと心の奥底で思ってしまった。
エレンがそう言うならそうなのかもしれない…と。
いつもの川辺へと向かいながら同じ事をぐるぐると考えているとアルミンと何やら揉めてるような声が聞こえてきた。
『アルミン…?』
「絶対アイツらだろ。懲りねぇヤツらだな!」
エレンは物凄い勢いで走り出す。
そんな彼に追いつこうとエレナは必死で走った。
「やめろ!!何やってんだお前ら!!」
そこにいたのはいつもの悪ガキ3人組。
私達4人の中でも特に気が弱く喧嘩や暴力が苦手なアルミンはいつもその標的になりやすい。
しかし、彼は精神面ではヤツらに圧倒的差で勝っていた。
冷静でいる事で相手より自分の方に余裕があり、優位に立っていると思わせる。
そして正論で相手の図星を突く。
これが冷静沈着で聡明なアルミンだからこそできる話術だ。
「エレンだ!!…と後ろにいるのはエレナか?まぁ俺達三人がかりならアイツらをぶちのめすのは楽勝だぜ!」
余裕そうな彼らの視線の先には人一人でも殺しそうなオーラを垂れ流したミカサの姿が迫っていた。
「あッ⁈だ…駄目だミカサがいるぞ!!」
先程の啖呵はどうしたものか、アルミンを放って逃げて行き、3人の姿は瞬く間に小さくなっていった。
「おぉ…あいつらオレを見て逃げやがった!」
「イテテ…。いや、ミカサを見て逃げたんだろ…」
『アルミン。……大丈夫?』
尻餅をついたままのアルミンに手を差し出すエレナ。
しかし、アルミンはその手をじっと見つめると口元を引き締めた。
「ひ…一人で立てるよ」
それは事実上、喧嘩では勝てないアルミンなりの強がりだった。