第30章 サイレント•マジョリティ
医師だろう、白衣に身を包んだ男が近づいてきた。
「よお、クソガキ。命拾いしたな」
「っ……ぁ……」
「お前なんか死んでくれた方が本当はよかったんだけどな。
感謝しろよ?一発目だったから、薬が抜けりゃ問題ねぇ。あとは折れた骨が治れば元に戻る」
ちょっと顔見せてみな、と言っての容態を確認する。
この医師、まるで医師とは思えない、といえよりものことをよく知っているような口ぶりだった。
『貧困ビジネスに手を出した馬鹿な病院だよ』
もしかして。
「ん、大丈夫そうだな。今度お礼にフェラしてくれ……いや、やっぱいいわ。噛みちぎられそうだ。」
「っ、し、ね……!」
「今死にかけてんのはテメェだけどな。またちょくちょく様子見に来るわ〜。じゃあなクソガキ」
手をヒラヒラと振り、患者をみにきた医師の態度とは思えないほど乱雑に扉を閉め、消えていった。
「、大丈夫か」
「…ん、なんとか……ごめ、んね……ドジして、うっかり捕まっちゃた……へへ……」
「無理して話さなくていいから。心配すんな、ずっとここに居る」
「たかし、くん……やさしいなぁ……ありがと………」
ふふ、と力なく微笑えみかける姿が痛々しくて辛い。
もしが1年半前にあんな事をしていなければ、こいつはあの時のままで、今よりずっと平和な場所にいられた筈だ。
だけど、はずっと殺したかったと言っていた。
きっとこいつにとって、仇を討たないで平和でいる事の方が、よっぽど辛かったのだろう。
『わあ、三ツ谷くんって、本当にかっこいいね。俺、好きになっちゃいそう』
『…三ツ谷くんの人たらし』
『隆くん、会いたい』
『俺と、お揃いだから。それ』
「ッ………」
もし、時間を戻せるなら。
あの日のを力ずくでも止めたい。
復讐をして辛くなるのはお前なんだと、あいつが納得するまで説きたい。
でも、できない。
そんなことはできないのだ。
どうしたらお前を救える?
どうしたらまた、あの時みたいに戻れる?
「オレは…」
お前を幸せにすることを、絶対に諦めない。