第29章 地獄へ
数日後。
暇を持て余していたオレは、ぺーやんとファミレスに来た。
なんとなく食欲がわかなくて、頼んだサイドメニューをちまちまと摘んでいた。
「そういえばよぉ、あのDES・Rowの総長、今相当やべぇって噂だぜ」
「は?」
ぺーやんの言葉に、心臓がドクンと鈍く揺さぶられる。
「噂だけどよぉ、東卍にいたやつがたまたま見たって。この前の工場の事故の現場に皇帝がいたらしい、しかも血塗れで刀持って」
「……ただの噂だろ」
「けどよぉ、界隈では絶対皇帝の仕業だっていわれてる。あの組、皇帝の兄貴殺した奴ららしいから、妙に噛み合うっつうか」
「…まさか」
「それとよ、話によるともう一人誰かいたらしいぜ。ただ、そっちは背中向けてたから誰かわからなかったらしい」
ぺーやんの声が、どんどん遠くなるような感覚に陥る。
誰かが、あの場所にいて見ていた。
恐らく、ぺーやんの言った「もう一人」はオレだろう。
不意に、ポケットに入れていた携帯が震える。
メールだ。差出人は千冬だ。
『from:千冬
さんの事で何か知ってたら、
教えて欲しいです。』
「……わりぃ、ちょっと用事思い出したから先に帰るわ」
「は?って、おい待てやコラァ!」
三ツ谷と合流した場所は、かつて東卍の集会所だった場所だ。
「三ツ谷くん、すみません来てもらって」
「いいよ、近くにいたし」
「それで、あの事……」
千冬の瞳が大きく揺らぐのがわかる。
動揺、混乱、悲愴、そんな感情が垣間見えた。
自分以外の人間にあの事を話すつもりはなかった。
道を外したあいつはこれからどんどん孤独になっていくだろう。
いいチャンスだ。ずっと手に入れたくて堪らなかったと、誰にも言えない秘密を共有した。それは、を支配し自分のものにするチャンスだ。
だけど、そんなやり方で手に入れてどうする。
それは、愛ではない。
本当にあいつの事を思うのなら、これから孤独になるあいつの支えを作りたい。
「千冬、もしそれが本当だったら、お前はから離れていくか?」
だから、お前のあいつへの気持ちが
「……もし、あの話が本当なら……」
真実なら
「本当なら、オレはあの人を救いたい。
あの人の望む世界に、オレはいたい」
「…………今の言葉、忘れんなよ」