第27章 篝火
バキッ!という鈍い音が響いた。
あまりにも早すぎて理解が追いつかなかったが、数刻遅れでさんが九条さんを殴ったことを理解した。
「お前、何勝手に消えてんだよ。俺が怖くなった?嫌になったのか?」
「…、落ち着いて。何か理由があったんだと思う」
「どんな理由?いや、そんなのどうでもいい、お前が俺の側からいなくなるくらいなら、今ここで殺してやる」
そう言って床に倒れたままの九条さんに馬乗りになって、首に手をかけた。
九条さんは抵抗しない。それはまるで、本望だとでも言うようにすんなりと受け入れている様にすら見えた。
異常だ。
この二人の愛は壊れている。
目の前の狂った光景に体が硬直して動けなくなった。
九条さんは静かに眠るように目を閉じる。
さんはその表情を満足気にみながら、手に力を込めた。
ダメだ、本当に殺されてしまう。
助けなきゃ。でもどうやって
「総長、その辺にしておきましょう」
「わっ」
岩淵さんが、さんの服の襟を掴んで持ち上げる。親猫に咥えてる子猫みたいに宙ぶらりの状態だ。
しかし、いくら細身とはいえ片手で軽々と人一人を持ち上げるこの人のパワーはどうなっているんだ。まるで鞄を持ち上げるように、まったく力を使っている感じがない。
「それやめろって言ってるだろ!降ろせ!」
「はい。すみません」
素直に従い、さんを優しく地面に降ろす。
「もう、お前ほんとそれやめて。中学生に持ち上げられる高校生とか意味わかんないでしょ」
「はい。すみません」
思わず「え!」っと声を出してしまった。
岩淵さんって今中学生なのか、だとしたら千冬や今のオレより年下じゃないか。
「ほんとにすみませんって思ってんのかー?まあいいけどさぁ……九条」
「………」
「やりすぎた。ごめんね」
そういって、にっこり九条さんに笑いかける。
さっきまで確かに殺そうとしていたのに、なんでそんな笑顔を向けられるのか。
DES・Rowってこんな狂ってたか?
「ううん、嬉しかった」
「そ、ならよかった。俺から少しでも離れようとしたら殺しちゃうからね」
「わかってる」
もうこの場所には近づかない方がいい。
誰かがそう語りかけてきたような気がした。