第26章 慟哭
パシッという音が響き、頬に痛みが走った。
怒りで顔を真っ赤にし、肩で呼吸をしながら睨んでくるさんを視界に入れる。
「……痛えな、何すんだよ」
「ッ!お前ッ…!」
もう一発ビンタを喰らいそうになるが、その手首を掴んでとめる。
普段の喧嘩だったらさんの攻撃を受け止めることはほぼ不可能、視界で捉えることすらできるか分からない。
つまり今のさんのビンタは本気ではないし、なにより怒り任せでまったく頭を使っていない。だから難なく受け止めることが出来た。
「離せよ!」
「別にいいけど」
そういって、あっさり手を離し、さらに言葉を繋ぐ。
「オレ、今日は帰ります。」
「っ…」
キレすぎたかもしれない。
楽しいはずの泊まりをぶち壊したのは申し訳ないと思っている。
だけど、本心をぶつけられてスッキリしている自分もいる。
荷物を持ち、靴を履いて玄関のドアノブを握ると後ろから腕を掴まれた。
「待てよ」
「…なんですか?」
「は、話終わってねえだろ…それに、もう夜も遅いし……」
どこかしどろもどろに話すさんはやっぱりかわいい。
夜も遅いしって、女子じゃあるまいし。
心のなかで少し笑ってしまう。
「……さん、オレはいつまでもこんな事で悩みたくない。前喧嘩した時だって今みたいな理由じゃないですか。もう、疲れました」
それは本心ではない。
確かにいつも同じようなことで悩んでは苦しんで、それが嫌なのは確かにそうだ。
だからってもう疲れて嫌になるということはない。これだけ振り回されても、変わらずアナタを愛している。
「それじゃあ。お邪魔しました」
そういって扉を開こうとした時、強い力に体が引っ張られ、そのまま床に倒れる。
腹に少しの重さを感じて目をやると、さんが馬乗りになっているのが見える。
「っ…てぇな…何すんだよ」
「………ふざけんなよ、今日は帰さねえから」
俯いていて、表情はよく見えない。
友達や仲の良い人間には優しいと定評のあるさんが力ずくで押し倒すくらいだ、さぞ怒っているだろう。
このままボコられるのは流石にまずい。