第25章 過去
その日、俺はスーパーに買い出しに行っていた。
夜はカレーがいいな。ポークカレーにしよう。そう兄貴が言ったから、材料を買った。
作ったら、凛も呼んでやろう。まだぎこちないけど、最初よりは大分話せるようになってきた。
家につくと、鍵が空いていた。
俺が鍵を閉め忘れることは絶対ない。
じゃあ、兄貴が忘れた?
それはもっと有り得ない。
俺に口うるさく鍵をかけるよう指導したのは兄貴本人なのだから。
嫌な予感がした。
買ってきた材料をその場に落とすように置き、勢いよく扉をあけて中に入った。
目に飛び込んできた光景に、体が動かなくなった。
「…!ば、か……はやく……逃げ、……」
「………ぁ、?……兄貴……?」
「よお、お前が噂の弟かぁ」
なんだこれ。何が起きてる?
目の前の光景に、パニックで頭が真っ白になった。
どうしよう、どうしたらいい?
こわい、体が動かない。
でも、兄貴が、兄貴が、
体が血まみれだ、倒れてる。助けなきゃ
「なぁ弟くん、お前ほんと美形だな。にーちゃんの前で犯されてみるかぁ?」
「ッ………!!」
兄貴の側に立ち汚く笑みを浮かべる男を俺は知らない。大人だ。30歳くらい?でも一目見てわかるのはこの人がカタギでは無いことだ。
両腕にビッシリと刺青が入っていて、刃物を握る手の小指は欠けている。
その刃物には、兄貴のものと思われる血がビッシリこびり付いていた。
男が、こちらに足を踏み出した。
こわい
こわい
誰か、
「………あ゛?なんの真似だ」
兄貴が、ヤクザの足を掴んでいた。
「……」
「あ…兄貴、兄貴ッ…!」
「ごめ、んな…自分勝手な、兄ちゃんで……デス・ロウを、頼む…」
「嫌だ!!無理だ、兄貴!」
「ッ、早く行け、!!!!」
「ッ…!!!!」
始めてみる兄貴の物凄い鬼迫に、弾かれたように走り出した。
その後のことはあまり覚えていない。
覚えているのは、泣いている俺のそばで、凛が一緒に泣いていてくれた事だけだ。