第4章 三ツ谷
「あ!三ツ谷くん〜!みつけた!」
少年のような幼さの残る高い声が聞こえた。
振り返れば、甘い花の香りが花をかすめ、誰かにしがみつかれた。
「っ、なんでここに…」
「マイキーが遊びにこいって言ってくれたから、来た。三ツ谷くん、会いたかった」
そういって、人の好きそうな笑顔を浮かべ見上げてくる彼はオレらの代最強と謳われる男。
「はぁ…っつーか、マイキーからの視線がヤバい」
「あ、やば。ごめんね」
そういって離れていく体温が名残惜しいと思ってしまった。
オレはどうかしてる。
「ねえ三ツ谷くん、今度2人でデートしよっか」
2人にしか聞こえない声量で、囁く。
デートだなんて冗談で、ただの遊びの誘いだ。
わかってるのに、甘い誘惑のように思えた。
マイキーがこいつにゾッコンなのはわかってる。
だからオレは、オレもそうならないように、一歩ひいてるんだ。
なんでわからない、なんで気付かない、この人たらし野郎。
「…はぁ。行きたい所、考えとけよ」
「やった!もう考えてるよ〜、ふふ。あ、マナとルナにも会いたいなぁ」
皇帝。
華奢な体つきでありながらそう呼ばれるのは、彼がロシアの格闘技「システマ」の使い手であり、無敵だからだ。
超能力でも使ったのかと思ってしまうほどの圧倒的スピードと技術は、彼に欠けたパワーを十分に補う。
『俺には圧倒的パワー!みたいなかっこいいのがないからさ、こういう風に戦うんだ。俺、鍛えるのとか苦手だからさ…疲れちゃうし』
いつだかファミレスでそんな風に語っていたのを思い出す。
「全員集まれ!」
ドラケンの咆哮が聞こえる。集会が始まる合図だ。
「じゃ、俺は向こうに座ってみてるね」
手をヒラヒラと振り、ホワイトアッシュの髪を揺らしてふらふらと離れていった。
その姿が、暗闇の中で一際輝く彼が、綺麗だと思った。