第10章 千冬
さんは色々なところに連れて行ってくれた。
まるでオレの方が連れてきたみたいにはしゃぐ姿は、幼くて可愛いと思った。
そろそろ日が落ちてきた。
夕暮れの中、最後にとっておきのところ連れてってくれると言ってたどり着いた場所は廃墟になった遊園地だった。
「こちらへどうぞ、王子様」
そういって、朽ちたコーヒーカップに手招いた。
「オレが王子様だったら、さんは何なんですか?」
「俺?俺はー…そうだね、じゃあ、君のナイトはどう?」
両肘をついて、手の上に顔を乗せたまま首を傾げる姿がいじらしい。
「皇帝がナイトですか、頼りがいありまくりっスね」
「ふふ、俺の方が千冬くんよりお兄さんだもーん」
そう言って頭を撫でられる。嫌な気はしない。しないけど複雑ではある。
「……さん」
「なに?」
「オレ、さんにとっては"かわいい"ですか?」
さんに言われたことを思い出す。
彼にとって俺はかわいい弟分なのだろうか。
少し間が空いて、空気が少しピンと張り詰めて緊張する。
さんがそっと手を伸ばし、俺の頬に触れた。
「俺の事、口説いてんの?…千冬」
遠くで鳥が羽ばたく音がする。
体を動かすことができないから、聴覚が研ぎ澄まされる。
「それなら…」
さんが、身を乗り出して顔をちかづける。
この人の吐息は、熱い。
なんだこれ。今どういう状況だ?オレは今、誰と何をしている?
「……なーんてね、じょうだん!」
「あいだっ!!」
額に痛みが走る。
「な、何するんですか!」
「ん?デコピン〜」
「さんっ」
「」
「え?」
「って呼んで、千冬」
朽ちた遊具の周りに生い茂る、伸びきった草が、音もなく揺れる。
「さん」
男を好きになっちゃいました。
そう言ったら、きっと場地さんなら、いいんじゃねーの?男でも。って言ってくれそうな気がした。