第38章 想い
「九条はもう、とっくに骨になって埋葬されてる」
「………わかってる」
「だろうな。
司法解剖は俺が阻止してやったから感謝しろよ?切り裂かれずに済んだんだからな。
で、あいつの遺体な。
処置の時、びっくりするほど穏やかな顔してた」
穏やかな、顔。
「遺体ってのは死ぬ直前の心境がよく顔に出るんだわ。あんなに穏やかで幸せそうな死に顔するやつも滅多にいねえ。
まるで家族に看取られながら大往生を遂げた人間みてーな顔してたよ。
何があったか知らねえけど、あいつは何かを成し遂げたように眠った。なら、とっとと前向いて、助けた甲斐があったって安心させてやれよ」
「……………………」
「ま、そんだけだ。俺は戻る。治ったら金よろしくな〜」
そういって、あいつは病室を後にした。
「……………穏やかな、顔…………凛が……………」
「……」
「雪村、あのね、俺、あの工場で、凛と、」
「バカ、無理して話さなくていい」
「違う、聞いて欲しいんだ。
凛、炎の中で俺を抱きしめて言ったんだ、ここで一緒に死のうって。
でも、嘘だったんだ、あれは、俺を安心させるための嘘で、最初から自分が死んで俺を助けるつもりだったんだ……!!!」
「ッ………!!」
雪村が俺を強く抱きしめる。
涙と嗚咽が止まらない、でも、でもやっと泣けた。ずっと、俺は声を上げて泣きたかったんだ。
「凛が夢に出てきたんだ、好きな人みつけて、幸せになれって、ねえ、俺はこれから幸せになれるのかな?わかんない、分かんないよッ…!」
「それがあいつの頼みなんだろ!
なれよ、お前は幸せになれるよ…!
俺もいるし、DES・Rowのみんなも、三ツ谷も松野もいる、お前は一人じゃねえだろ!」
二人して、声を上げて泣いた。
千冬と隆くんもそばに来て、「やっと泣けるようになったな」って優しい声で言ってくれた。
『よかったね、。』
そう、遠くから声が聞こえた気がした。