第36章 目覚め
『悪い、今大丈夫か?』
「はい。それで、DES・Rowは…」
『ああ、正直かなりやべえと思う。雪村からはあれから未だに返信こねえし、電話も出ねえ』
「…そう、ですか」
『とりあえず、オレもやる事終わったらそっち行くわ』
「はい、わかりました」
通話を切り、ポケットに携帯をしまう。
一週間前、近隣の半グレや暴力団に狙われていてDES・Rowが非常に危険な状態であると聞いた。『俺はみんなを守らなきないけないからの事を頼む、あとにはこの事絶対に言うなよ』と念を押してきて以降雪村さんは病院に来なくなった。
雪村さんの事が気になるが、いつ戻ってきても大丈夫なように少しでもさんに元気を取り戻させるのがオレの役目だ。
頭から余計な考えを振り払うよう、個室の病室の扉をあけさんの元へ戻る。
「すみません、戻りまし……!?さん!!」
しまった。
目を離してはいけなかった。
「何してるんですか!!!」
さんの手からフルーツナイフを取り上げる。
オレが離席している間に、手首を切っていたのだ。
シーツと服、そして白い肌が赤く染っていた。
近くにあったタオルで傷を抑え、ナースコールで看護師を呼ぶ。
ああ、前もこんな事あったな。
あの時は布団に隠れて、オレにごめんって謝ってたっけか。
昔を思い出すと胸が圧迫されるように苦しい。
込み上げてきそうな嗚咽と涙を必死に堪えながら、切り刻まれた手首を止血した。
看護師による手当が済み、再び二人きりになった。
二人だけの空間とは、本来であれば甘いはずの時間だ。こんな事になっていなければ。
「……さん、アンタ死にたいんですか」
「……………」
言葉は返ってこない。
「……ねえ。元気になったら、また八王子案内してくださいよ」
「………………」
「そうだ、オレ奥多摩行ってみたいんすよね。行ったことありますか?」
「………………」
「二人で、行きましょうよ。来年の夏に」
語りかけながら、さんの髪を撫でる。
さんは相変わらず無感情で、その瞳には何も映し出していなかった。