第33章 追憶
「凛!こっちこっち!」
「わっ!」
二人きり、夜の浜辺に遊びに来ていた。
自分よりも20cmほど小さいに腕を引かれ、砂の上を裸足で走る。
海の潮水が僅かにつま先にかかるところで立ち止まり、どちらともなく手を絡めあい、暗い海面を眺める。
「みて、月の光が反射してる」
「ふふ、綺麗だね」
小波に反射した水面がゆらゆらと揺れる。
潮水に足をつけ、冷たい海の水の感触を楽しむ。
「つめた」
「きもちー!ね、もっと奥行こうぜ!」
「濡れるじゃん」
「いいじゃん、二人で水浸しになろ!」
「うわ!」
無理やり手を引かれ、奥に進み、結局腰の位置まで水に浸ってしまった。
「あーあ、帰りどうすんの」
「歩きだし平気だよ、夜中だから誰もいないしさ。
それより、不思議だね。お前と二人で別世界に来たみたいだ」
「…………うん、わかる」
「えいっ」
不意に顔に水がかかる。
「………やったな」
同じことをやり返すと、うわっと声を上げた。
気づいたら水かけ合戦は白熱し、全身びしょ濡れになっていた。
「もー!お前ほんと容赦ない!」
そう言って笑うの白いシャツが水で体に張り付き、肌が透けてみえる。
濡れた長めの髪をかきあげる姿は、妙に色っぽい。
思わず視線を逸らした。
「?何してんだおまえ」
「別に」
暗闇の中で月光に照らされたは、この世の生き物とは思えないほど美しく幻想的だ。
「凛……綺麗だ。この世の誰よりも」
そう言って、が俺の腰に腕を回す。
それに応えるよえに、俺もの小さな体を腕の中に閉じ込める。
「」
「なに?」
「未来で、俺がどうしてそばにいなかったかはわからない。でも、約束する。俺はお前のそばにいるから」
「……うん、わかったよ。それなら」
の冷えた手が、俺の頬をなぞるように撫でる。
「生きて、凛」
俺たちの関係の名前はなんなのだろう。
家族でもない、親友とも違う。
俺がなりたいのは、どちらとも違う。
もし今ここで付き合ってくれと囁いたら。君はなんと答えるのだろうか。
「凛?どうした?」
「…なんでもないよ。帰ろうか」
「…うち、泊まる?」
ゾクッと、腰が疼く。
「…泊まる」
今日もまた、彼に慰めてもらうのだ。