第22章 落花流水 前
「……なるほど、おおよその事情は把握致しました。このような不逞は城へ連行の上、取り調べの後、然るべき処罰が下される事は当然ご存知かと思いましたので、正当な理由でお怒りかとお話を聞かせていただこうと致しましたが、どうやら違ったようですね」
「嘘を言うな三成、お前最初から分かってて話聞いてただろ」
「恐縮です、家康様」
「褒めてない」
家康が最初から取り合うな、と三成に言っていたのは三成自身も分かっていると察しがついていたからである。笑っているようで目だけが笑っていない。そんな状態の三成を目にするのが、実は初めてだった凪は、つい面食らった様子でぽかんと目を瞬かせ、彼らのやり取りを見つめていた。
「お前は見た事がなかっただろうが、ああ見えて三成もかなりの切れ者だ」
「そうなんですね、ちょっとびっくり……って、また勝手に心を読む!」
「意外だ、と思い切り顔に書いてあったぞ」
三成と家康のやり取りの最中、隣に立つ光秀が凪の心情へ答えるかのように告げる。感心した様子でおもむろに頷きかけた凪が、ふと隣の男を見上げて眉根を寄せた。くつりと笑った光秀は、若干眉根が寄せられた彼女の鼻の頭を指先でつん、と突ついて口角を上げる。
「この…っ、お前等、やれ!」
「お、おう…っ!」
一方、多方面から色んな意味で追い詰められた男は背後の二人に声をかけた。もはや自暴自棄である様が窺えたのは明らかであり、声をかけられた二人も、若干戸惑いを見せつつ懐に入れていた瓶を取り出す。そうして栓を抜いたと同時、日頃御殿などでよく嗅ぐ匂いがして来た事に気付いた凪が光秀を見上げた。
「光秀さん、あれ油…!」
「家康、三成」
「はっ!」
「分かってます」
焦燥した凪の声を耳にしたと同時、光秀が動く。二人の名を呼んだと同時、短く反応した二人が店内へ油をまこうとした男二人へ距離を詰めた。片やは三成により手首を押さえられ、そのまま掌底を鳩尾の辺りへ叩き込まれると、短い呻きを上げて両膝を地面につく。