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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「可愛い連れ合いが求めるものを買ってやりたいと思うのは、当然の事だろう」
「そ、そういう事を人前で…!」

想いを交わして以来、やけに可愛い可愛いと言って来る男の意図が、よもや自分を恥ずかしがらせる為なのでは、と段々見当がついて来たらしい凪は、それでも結局恥ずかしがってしまう自分に呆れながらも眉根を顰めた。目元に朱を走らせた彼女が二の句を紡ごうとしたタイミングで人差し指をあてがい、凪の柔らかな唇へ指先をそっと触れさせた後、光秀が低く囁きかける。

「ここは素直に言う事を聞いておけ」
「……う、」
「文句なら、後で幾らでも聞いてやる」
「………文句いっぱいで、眠れなくなっても知りませんよ」
「お前の所為で眠れないなら、それも悪くない」

確かに店の中で払う、払わないの問答を続けるのも迷惑だろう。文句は後で聞いてくれるという事なので、ひとまずこの場は収める事にしたらしい凪は気恥ずかしそうに顔をふいと逸らした。そんな二人のやり取りを眺めていた若旦那は、くすくすと鈴を転がしたようなささやかな笑いを零す。第三者が居た事を一瞬、すっかり忘れてしまっていた凪が顔を赤くする様を見て、彼は柔和に微笑んだ。

「仲が大層宜しいのでございますね。承知致しました。こちらのお品物は後程お届けに上がります────…明智、光秀様」
「……ほう、俺を知っているのか」

敢えて一拍置き、言葉を発したように聞こえた若旦那のそれへ、光秀の眼が静かに眇められた。さすがに先程まで通りを歩いていた時と雰囲気が異なる事には気付いたらしい凪が、腰を抱かれた状態で隣の光秀を見上げる。

「知っているも何も、この安土城下で貴方様の御顔を知らぬ者などおりません。そちらのお嬢様へは、初めて御目にかかりますが…」
「好奇心は猫をも殺すという。貴兄も商人であれば、上手く立ち回る事をお勧めする」
「何とも恐ろしい世の中でございます。ですが、このような言葉もございますよ。…窮鼠、猫を噛む」

(…え、なんかこの二人の会話、怖い…!!)

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