第21章 熱の在処

考えれば考える程、まだまだ溢れて来そうな凪の不安要素を何もかも呑み込んでしまうかの如く、言葉を続けようとした凪の唇を光秀のそれが塞ぐ。触れるだけで離れて行った唇に導かれるかの如く、ゆっくりと俯かせていた顔を上げた凪の視線の先に、光秀の穏やかな笑みがある。優しい熱を帯びた金色の眼を和らげた男が、くつりと喉の奥で小さく笑いを落とした。

「俺は、そんなお前が堪らなく愛おしくて仕方ない」
「光秀さ、」

凪が呼びかけた拍子、呼吸を飲み込まれる。重なった唇の隙間から入り込んで来た舌先が凪を誘って口内をくすぐった。咄嗟に奥へ引っ込めた舌先をそっと差し出し、光秀のそれへ絡める。男の片腕が、宥めるように頭や頬に触れるのではなく、離さないと言わんばかりに凪の身体を抱き締めた。

「…っ…ん、ぅ…」

重なった唇の隙間から小さな声が漏れ、凪が眼を必死に閉ざしつつ、ぎこちなく光秀の舌の表面を舐める。次第に唾液が絡まり出し、水音が鼓膜を震わせた。凪が舌先の愛撫に自ら意思を持って応えたのは初めてで、その行為が独りよがりなものでないと男へ知らしめている。光秀が角度を変えて舌を差し入れつつ、唾液の絡む舌を互いに擦り付けた。

「は……ぁ、…っ…」

ぬるぬるとした感触が凪の呼吸を震わせる。擦り合わせる度、びく、と腰の辺りが小さく跳ね、その反応に気付いた光秀の手がゆっくりと身体の線を辿って下りて行った。細い腰を優しく撫でれば、小さな声を漏らして凪の擦り合わせていた舌がぴくりと跳ねる。散々凪の暖かく柔らかい舌を堪能し、最後にちゅっと音を立てて優しく凪の舌を吸った後、ゆっくりと唇を離した。
深く唾液を絡ませ合った後に唇を離した所為で、二人の間には銀の糸が繋がれる。ぷつりと音もなく切れたそれが消えた後、凪は乱れた呼吸を整えながら、些かむっとした眼差しで男を見上げた。

「………意地悪ですね」
「なに、こなれていないながらに求める様が愛らしくてな」
「…下手くそって言いたいんですか」
「まさか。褒めているだけだろう」